実際のところ、冬の間ずっと、清麿はハラハラしていた。デュフォーは能力的には問題ない、というかピカイチだが、性格的には難ありだ。
 あの口ぐせ── お前、頭悪いな ── をだれ彼構わずいってしまって敵を増やしているんじゃないかと、想像して青ざめたことも一度や二度ではない(だって彼にあの口ぐせをいわれたことのないヤツなんて、ゼオンと自分とガッシュの三人だけなのだ!)。
 ただ、それでも、デュフォー以上の適任者はいなかった。北の地を纏めるため、失敗は許されない状況の中で、自然を相手に確実な先手を打つことのできるものは、彼以外思い浮かばなかったのだ。たとえ北部の、雪と氷に覆われた場所だと聞いただけで、ゼオンが顔色を変えて猛反対しようとも。
 けれど、ハラハラしているあいだに冬は去り、デュフォーは春と共に戻ってきた。そして、清麿の手にぽんとお土産を乗せた。まるで温泉まんじゅうのように気軽に渡されたそれは、北部の領主たちからの忠誠と、北の民からの王へ対する絶大な信頼だった。
 だから、この広い執務室に山を作るほどに、北の民からお礼の品が届いたのは、清麿としてもうれしい限りだ。おまけにこの二品は、とても懐かしい。
「こんなにジャガイモとニンジンに似ているのは、初めて見るなあ」
 基本的に、人間界と魔界の食べ物はそれほど変わらない。驚くようなことも多々あるが、それは地方によって、あるいは国によって食文化が違うのと同じレベルの事だ。それでも、あちらにあってこちらにないものはたくさんあった。
 清麿はいくつかのジャガイモ(らしきもの)をしげしげと眺めて、小さく口を緩めた。
「なぁ、デュフォー。これ、季節と土を合わせれば、こっちでも育つよな?」
「だろうな。でも、オレは手伝わない」
「なんでだよ!?」
「清麿を手伝うと、ゼオンと過ごす時間がなくなる。ゼオンと過ごす時間がなくなると、ゼオンが不機嫌になる。春に帰ってきたら、あまり離れるなと怒られた。だから、なるべく手伝わない。わかったか?」
「わかった……」
 珍しく饒舌に話すところを見ると、怒られたことを多少理不尽には感じているらしい。それでもぜったいに、ゼオンには矛先が向かないのがデュフォーだ。
 これはどうやっても、今回は手伝ってもらえないだろう。ほかの相手なら宰相命令を出すこともできるが、デュフォーに命令できるのはゼオンだけだ。清麿ががっかりしていると、軽やかなノックの音と同時に、執務室のドアが開いた。
「清麿、オヤツの時間なのだ!」
 小ぶりのスコーンを高々と掲げたのは、知らない者が見れば到底信じられないことだろうが、魔界において至高なる存在、魔界王だった。
 背丈は清麿を追い越し、手足はしなやかさと力強さを増し、光に映える金の髪は、まるで太陽の王冠を抱いているようだ。よどみを知らない声は魔界のすみずみまで広がり、輝く眼差しは空の深さを持って魔界を包んでいる。太陽王とあだ名されるにふさわしい青年の姿だった。
 ただし、黙っていれば。
 黙っていれば太陽王、ひとこと話せばただのガッシュ、といったのは、キャンチョメだったかティオだったか。
「ガッシュ…、ノックをしたら返事を待てって、何回いったらわかるんだ?あぁ?王宮外のお客人が来てたらどーするんだ!魔界王陛下が、オヤツの時間なのだ!って叫ぶところを目撃されたいか!?」
「大丈夫だ、清麿!オヤツはたっぷり用意してあるからの!一人や二人増えてもどうってことはないのだぞ!」
「そういうこといってるんじゃねえええ!」
 胸を張る王陛下に、清麿は目を吊り上げてツッコんだ。まったく、背丈ばかりニョキニョキと伸びて、中身はちっとも変わらない。優しい王様になると誓った、その優しさが、歳を重ね、世界の理不尽さを知っても、枯れることなくあふれ続けているのは素晴らしいことだ。が、もう少し、歳相応の落ち着きと!配慮を!もって欲しいものである。
 唸っている清麿の隣で、デュフォーとガッシュはさっさとお茶の準備を進めていた。ガッシュの後ろからついてきた侍女たちも、毎回のことに笑いを噛み殺しながら、ティーセットを並べていく。本日のオヤツは焼きたてのスコーンに南部特産のローズティ、それにクリームののった小さなプリンだった。実にお子様が喜びそうなメニューである。
 そのお子様代表の魔界王陛下は、デュフォーから渡された二つの北部特産品をしげしげと見つめて、ぱあっと目を輝かせた。
「カレーだの!」