ようやく一日の仕事が終わったと、肩をほぐしているところに、城内でも際立って冷たい表情の持ち主である双子の兄が、背後におどろおどろと渦巻く殺気を背負ってやってきたら誰だって驚くだろう。
 入れ違いに退出しようとしていた大将軍のマントの裾をむんずと掴み、へっぴり腰になりながら兄を見上げる。まったくもってホラーだ。自分を暗殺に来たといわれても不思議じゃない顔だ。
 だが兄が大きな紙袋から取り出したのは、毒を塗った短刀ではなく、いくつもの酒瓶だった。
「……付き合え、ガッシュ」
 まだ飲んでいないはずなのに目が据わっているゼオンに、金色の王はこくこくと頷いた。ついでに、掴んだままの裾を引きずり寄せて、強制参加させることに決めた。ブラゴの怒りのこもった目はスルー決定だ。今に限っては重力の王より、紫電の雷帝のほうが恐ろしい。


「それで、いったい何があったのだ?」
 飲まずにやっていられるかという風に、酒瓶をラッパ飲みするゼオンに、ガッシュは恐る恐る尋ねた。飲まないとやっていられないのはこちらの方だと思いつつも、いつもと様子が違いすぎる兄が恐ろしくて、ろくに酒が進まない。ブラゴも同じ心境だろう。ゼオンが持ってきたのは、兄らしく質の良い物ばかりだったけれど、味わうどころではない。
 あのゼオンが!自分などよりはるかに王族らしく、上から下まできちんとしているゼオンが。徹底した実力本位で、情けの欠片もないと陰口を叩かれるほど、感情を表に出すことのないゼオンが。もちろんガッシュは兄が愛情深いことを知っているが、それでもこんな風にわかりやすく荒れることなどめったに ── ……。
「もしかして、デュフォーと何かあったのかの?」
「 ─── 貴様が悪い」
 貴様と呼びつけられたのは、黙ってつまみの塩を舐めていたブラゴだった。
「なんのいいがかりだ?」
「あれと話していただろうが。十日前の昼に、西の中庭の端で。貴様があいつに何かいって、あいつが珍しく笑って……」
 ああ……、と思い出した顔でブラゴが頷く。ゼオンは酒瓶をテーブルに叩きつけて、頭を抱えた。
「あんなことがなければ、オレは、オレは ──── っ」
「あんなことって、ブラゴ、お主何かしたのか?」
「ふざけるな。少し話をしただけだ。貴様こそ何をとち狂ってやがる」
 不快そうに顔をゆがめるブラゴに、ゼオンはしばらく何も答えなかった。頭を抱えたままうつむき、少ししてから顔を上げると、再び酒瓶を掴んで一気飲みした。
「ヌオオオ、ゼオン、落ち着くのだ!一気飲みはよくないと清麿がいっておったぞ」
「ガッシュ、お前、清麿と寝てるのか」
「ブフゥー!!」
「貴様はあの女を抱いてるんだろうな」
「死ぬか、お前」
「オレがデュフォーを抱きたいといったらどうする」
 しんと静まり返った。酒を噴き出しかけたガッシュも、レイスを発動しかけたブラゴも、動きを止めて雷帝を見つめた。酒瓶を掴んだまま俯いている ─── 顔を上げられないのだろう ─── 普段はいかなる窮地にも冷静沈着な王軍の元帥を。