憎しみすら凍りつかせるものが、あるということ。
デュフォーがいま生きているのは、ただそれだけの理由だった。
秘めごと
「なぜ避けなかった」
慣れた手つきで包帯を巻きながら、ゼオンが尋ねる。
怒りを抑えてなお、稲妻のように激しく突き刺さるゼオンの眼が、デュフォーはいいと思っていた。
好きか嫌いかで分ければ、これはきっと好きだろう。けれど、好きといえるほどには強くない。好きと言えるものは、デュフォーの心には存在しない。
「デュフォー、なぜ避けなかった」
辛抱強く雷帝が尋ねるのに、デュフォーはそっと息をついた。ゼオンは嘘つきだ。己の心にあるのは弟への憎しみだけだといいながら、憎しみ以外の、いろいろな思いがゼオンの中にはある。
とはいえ、デュフォーは、そんなゼオンこそをいいと思っていた。本人にはいわないけれど、嘘つきなゼオンがデュフォーはいい。もしゼオンの言葉が真実だったなら、彼は自分と同じだ。こんな生き物は二人もいらない。
ただ、いいと思うのと、困るのはまた別の話だ。ゼオンの、憎しみ以外のいろいろな思いを、自分に向けられるのは困る。
「……避けなくても大丈夫だったんだ」
「死なないという意味でか。手当てをする手間を考えろ」
「しなくてもいい。しなくても死なない。……ゼオン、痛い」
「痛くしているのだから当然だ」
ぎりぎりと、上級呪文すら片手で受け止める魔物の腕力でぎりぎりと、包帯が結ばれる。
わずかに眉をひそめながら、デュフォーは考えた。
本来ならば、デュフォーは考える必要などない。デュフォーの頭脳は、全ての問いに一瞬で答えを出す。天才の枠から大きくはみだしたこの頭は、怪物とか、化け物とか、そういった類いだろうとデュフォーは思う。
けれどデュフォーはいま、精一杯考えて「答え」を出した。
「ゼオンが王になるまでは、死なないから大丈夫…」
いい終わるまえに、部屋の中で雷が鳴った。
「お前は、どうしてそうなんだ…ッ!なぜ諦める!復讐すればいいだろう!もっと徹底的に!!あんな、建物一つ破壊しただけで気がすむのか!お前を苦しめた奴等を全員、一人残らず探し出して、死んだほうがましだという目に合わせてやればいい!もし、それが嫌なら、奪われたものを取り戻すのでもいい。なにもかもを奪い返してやれ!お前が望むなら、俺は、この世界でお前が王になるために力を貸してやる…!」
「……ゼオン。俺はなにもいらない。なにも欲しくない。生も、死も、欲しくはないんだ」
生きているから、わざわざ死なないだけだ。
憎しみを燃え立たせるには、それなりの理由が必要だ。けれどもはや、デュフォーは奪われつくしている。誰もなにも、これ以上奪うことはできない。『最大の謎』の答えは、デュフォーから命への執着さえ奪ったのだから。
それがよかったのか、悪かったのか、デュフォーは考えても見たが、答えはいつも『なし』だった。
ゼオンに会う、ほんの一瞬前に、デュフォーの心は凍りついた。憎しみすら凍りつかせるものの名前は、絶望といった。
憎しみを燃え立たせることができれば、デュフォーはとうに、ゼオンの言うとおり全員を殺して、そして死ねていたかもしれない。それはそれで楽そうだと思うが、実際には凍り付いてしまった憎しみは、今ではただ深く沈んでいる。
「でも、ゼオン…。お前は、俺が初めてみた、違う景色だ。お前が王になれば、俺はきっと、また違う景色を見れるだろう。俺は、それが、見たい」
「……それが、望みか?」
「……望みといえるのは、それだけだ」
ゼオンは、少しだけ笑った。
「俺が王になったら、お前を魔界に連れて行ってやる」
「……違う景色が見れるか?」
首を傾げて尋ねれば、ゼオンは強く頷いた。
「お前でも答えの出ない世界を、見せてやろう」
デュフォーは、小さく唇を緩ませた。
「……楽しみだ」
初書きゼオデュです。
わー、まさか今さらガッシュに萌えるとは思いませんでした。
それも途中までは王道ガ清だったのに、デュフォーがあんまりにもあんまりで…!