デュフォーが何も話さなかったからだ。
ゼオンにしても、最初からそうするつもりではなかった。ゼオンにとって弱さとは罪悪にも等しかったが、人が魔物より弱い生き物であることは重々承知していたし、何よりデュフォーはパートナーだった。
この王を決める戦いを、幼い頃からずっと思っていたゼオンにとって、パートナーは少しだけ特別な存在だった。だから、デュフォーの望む破壊にも手を貸した。デュフォーがさらに何かを望むのなら、叶えてやってもよかった(むろん、その代償は求めただろうが)
けれど、デュフォーはなにも話さなかった。逆らうことも、逃げることもなかったが、ゼオンの問いに答えることもなかった。デュフォーはまるで、人によく似たマネキンのようだった。
だから、ゼオンは、デュフォーの記憶を見ることにした。必要ならば、いくらかの手を加えるつもりで、ソファで眠っている彼の頭に手を翳した。
なんの罪悪感も、なかった。
証明問題
デュフォーの眼がゆっくりと開いて、ゼオンを捕らえた。
その眼を見た瞬間に、彼が気づいているのだと悟った。いや、気づかないはずがない、彼は「答えを出す者」だった。
ゼオンの体はかすかに震えた。デュフォーが恐ろしかったわけではない。いかに彼が完璧な答えを出そうと、人である彼に自分を殺す力はない。
(だが…、殺意を持たれても仕方がない。オレがしたのは、それほどのことだ…!)
なにも話さなくて当然だった。誰が話せる。これほどの苦痛と、憎悪と、絶望を!
ゼオンにとって少しだけ特別だったパートナーは、すでにその心を、破壊し尽くされていた。もはやこの心のあり方は、人でも魔物でもないように思えた。
ゼオンは、きつく手を握り、頭を下げた。
「デュフォー、すまない。オレはお前の記憶を見た」
「別にいい。……それより、どうした、ゼオン」
薄い目は、かすかに戸惑っていた。
「なんで、笑っているんだ。それも、そんな顔で…」
それは、泣かないからだ。
ゼオンの唇がぶるぶると震えた。本当は泣きたい。あまりに悔しくて、憎くて、怒りのあまり泣いてしまいそうだ。だが、デュフォー。
(オレは王になる。涙など決して見せん。泣く代わりに、オレは、一人でも多くの敵を滅ぼして見せよう)
ゼオンは涙を殺して笑みを浮かべ、デュフォーの冷たい手にそっと触れた。
「デュフォー、手を貸せ。オレは王になる。オレは、証明して見せる。正しいのはオレだと。王にふさわしいのはオレだ。オレにバオウを与えなかったのは間違いだ。オレは、証明してみせる。正しいのはオレたちだと!」
パートナーの基準がどこにあるのかは知らない。なぜ、自分のパートナーが彼であったのかも、わからない。
だけどわかる。自分たちは、いらない存在だ。いらないと、いわれた存在だ。
(だが、泣き言はいわん。望んで生まれたわけではないと、嘆くことなどするものか。オレは、オレの力で、全てを手に入れて見せる)
けれど、デュフォーは小さく首を振った。
「ゼオン、お前はたぶん王になれる。オレの力を持ってしても、明確な答えは出せないが、確率はかなり高い。お前は証明できるだろう。でもオレは間違った生き物だ。だから、オレまでカウントするのはやめておけ」
「間違いなどと誰が決めた!?」
怒りのあまり、火花が散る。いったいだれが決めたというのか。彼を「破棄する」といった人間か。
「オレは王になる。王になったら、お前に部屋を与えてやる。誰も、お前を傷つけることは許さない。そこで、好きに暮らすといい。だから、デュフォー」
諦めてしまわないでくれと言いかけて、ゼオンは口をつぐんだ。
デュフォーの眼は何も映していなかった。どんなに言葉を尽くしても、今の彼ではすり抜けていくだけだとわかってしまう。
仕方がないのかもしれない。自分の命にさえ執着できないのだ。生きたまま死んでいるようなこの人には、明日の話など、何の価値もないのだろう。
(それでも。それでもオレは、証明しよう。絶望しているお前の分まで、オレが必ず証明してやる。オレたちは、いらない存在などではないと!)
ゼオンは、デュフォーの手を握り締めた。
──── たとえ、この先、王になった事でいっそう父に疎まれようとも。
デュフォー、お前が安らいでくれたら。心を取り戻してくれたら。望みをもってくれたら。
オレはきっと、救われる。
ゼオンはデュフォーの過去を知ってると思うんですが、デュフォーが過去を話すところが想像できなかったのでこんなことに。
親に振り向いて欲しい、そのために戦うことができるゼオンと、 何の望みもなく、いつ死んでもいいデュフォー。
ゼオンはプライドがあるから、そういうデュフォーに対して心配することも励ますこともできない、だいたいどちらかというとそういうタイプは軽蔑の対象、でもデュフォーの壮絶な過去を知ってるし親に売られたというところが自分とダブってキッツい、ので、できることと言えば、
心の中で心配&遠回しに過保護&キミのためにも世界を手に入れる、くらいだと思うのです。