この壮絶な戦いの、はじまりは何だったろう。
 そう、たしか、あのビーデルって子の、あのミスター・サタンに似てない可愛い女の子の、些細な一言だった気がする。



父と息子と師匠の正しいカンケイ



 その日、オレたちは、ブルマさんの家に集まってささやかなお祝いパーティをしていた。
 いつもの手作りバーベキューに、代わり映えのしないメンバー。あ、でも、オレの奥さん(ふっふっふ、もちろん18号のことだ)と、可愛い可愛いオレの娘と、悟飯の彼女が新メンバーに加わっている。
 悟空が生き返ったお祝いにしてはささやかすぎるくらいだけど(だってあいつは地球の救世主なんだぜ!)、まあ、オレたちにはこういうのがいちばん合ってるんだと思う。ミスター・サタンみたいに、パレードを練り歩きながら観衆に向かって手を振るなんて、悟空にはできっこないしな。
 ミスター・サタンが魔人ブウを倒したってことになってるけど、悟空はそれに文句を言う気はまるっきりない。それどころか、「あいつは本物の救世主だぞ」なんていっちゃってる。
 オレたちも悟空のそういう考えに慣れてるからなあ。冗談混じりに「ニセモノだろ」とかはいうけど、誰も本気でサタンに腹を立てたりしてない。特に孫家の人間なんて、だーれも気にしちゃいないし、悟飯にいたっては本気で「サタンさんも、意外とやるんですね!」なんていってた。あいつ、昔っから、おそろしく素直な子供だったからな…。
 でも、あのビーデルって子は、恥ずかしくてたまらないみたいだった。うん、まあ、わかるよ。
「パパは昔から、そうなのよ!」
 と、肉親の愚痴を悟飯に言い始めたときも、オレはかわいそうになあくらいしか思わなかったんだけど、風向きが変わってきたのは、悟飯が、
「でも、ビーデルさんに武術を教えてくれたのは、サタンさんなんでしょ?」
 と取りなしたときだった。
 イヤな予感がしたんだよ、オレは!!一般的地球人代表としては、ものすごーくイヤな予感がしたの!
 ビーデルって子は、オレの予感を裏切らず、実に無邪気に聞いてきた。
「悟飯くんに教えてくれたのも、お父さんなのよね?」
「いや、最初はピッコロさんだよ」
 悲しいことにというべきか、幸いなことにというべきか、ピッコロは来ていなかった…。来ていたら止めてくれただろうか…。無理かな。ピッコロって、実は地球より悟飯が大事なんじゃないかなーと、ときどき思うもんな。
「なんだよー、オラだって教えたじゃねえか、悟飯」
「そうですけど、基本はやっぱりピッコロさんですから」
 うん、悪気はない、わかってる!つーか本当のことだしな!
「じゃあ、ピッコロさんもお父さんみたいな存在なのね」
「そりゃー、ちがうだろー」
「うん、そうだね」
 うん、悪気はない、悪気はないんだ…!
 だいたい悟飯にとってピッコロが父親みたいなものだって、それも本当のことだしな!むしろピッコロのほうが父親時間が長かったんじゃねえの?ってくらいだしな!
 でも、付き合いの長い俺の目には、はっきりと、悟空が、ちょっとだけど、機嫌を損ねたのがわかった。あいつも子供の頃から変わってねーよ!!
「なんだよ、悟飯。オメーのとうちゃんはオラだろ。オラだってオラのじっちゃんはじっちゃんだぞ」
「え、はい、そうですけど。ピッコロさんはほら、お父さんとはまた別で、尊敬してるっていうか…。小さい頃はピッコロさんが育ててくれたようなものだったでしょう?」
 悟空の気が、ぐんと高まったのがわかった。
「おめえが連れ去られるまではオラが育てたんだぞ」
「ああ、でも正直、よく覚えてないんですよねー。その後のことが強烈すぎて」
 悟飯っ、頼むからそんな朗らかな顔でそんなこといわないでくれっ!!
「おめえは夜泣きして大変だった」
「そ、そうでしたか…、すみません」
「いい加減なこというでねえよ、悟空さ。悟飯ちゃんはちぃーっとも夜泣きのしねえいい子だったべ」
 チチさーん!今ちょっと悟空の気が下がったところだったのにー!!
 思わず頭を抱えたオレの隣で、悟空の気は相変わらずじりじりと上昇していた。
 いや、悟空ってさ、基本的には軽ーいヤツで、めったに怒らないヤツなんだけど。そのうえ格闘バカで、いつチチさんに愛想尽かされてもおかしくないし、正直悟飯がグレてもおかしくないようなヤツなんだけど。
 ただ、やっぱどこかで、家族には甘えてるんだと思う。チチさんも悟飯も、なんだかんだいいながら悟空のわがままに寛容だったし、悟空もどこかでそういうのわかってたんじゃないかなあ。だって、帰る場所がなくなったら、いくら悟空だって寂しいよ。
 その点悟飯は、いつだって無条件で悟空の帰りを待っててくれて、どんなに振りまわされたって『お父さん大好き!』な子供だったから…う、いかん、弁護しているつもりが、逆に悟飯がかわいそうになってきた…
「おめえが連れ去られたときも、オラは命がけで戦ったんだ」
「はい、ピッコロさんと一緒に戦ってくれたんですよね」
 ピッコロとか!あくまでピッコロがメインなのかよ!悟飯ー!
 オレはもう、血の汗がでそうになってきた。なんで孫家の男はみんな鈍いんだ!どうして悟空のこの気が感じ取れないんだ!
「…フリーザをやっつけたのもオラだ」
「ああ、あのとき、ピッコロさんも来てくれたんですよね。ボクがフリーザに殺されかけたときに、駆けつけてくれて…、あの時のピッコロさん、格好良かったなあ……」

 終わった、地球は終わった。いや、冗談じゃなくて、最低でもブルマさんの家くらいは終わったと思う。

 ぐんと気を高めた悟空が、髪をなかば金色にしながら叫んだ。
「ピッコロなんて、昔は悪いやつだったんだぞー!!」
「なっ!ピッコロさんの悪口をいわないで下さい!いくらお父さんでも、ボク、怒りますよ!」

 怒るなー!お前たちが怒ったら、地球なんて粉々になっちゃうんだぞー!!
 なんていうオレの心の叫びが聞こえるはずもなく、宇宙最強のサイヤ人と、潜在能力は宇宙最強といわれているその息子の、壮絶な親子喧嘩が始まってしまったのだ…。