「えー、では、ただ今より三十一回孫家家族会議を始めます」
天下一武道会会場内の食堂に、兄ちゃんの重苦しい声が響く。
三十一回って、それまでの三十回はなんですかいつやってたんですか、というオレの至極真っ当な質問は、とても口に出せる雰囲気ではなかった。
なんで、いきなりいなくなるかなあの天然修行バカ親父どのは!!
第三十一回孫家家族会議
母さんと兄ちゃんの顔がどんよりと曇っている。そりゃそーだ。昨日までとうさんは何にも言ってなかった。天下一武道会を楽しみにはしてたけど、それだけだった。
いきなり対戦相手を背中に乗せて消えるなんて、一言もいってなかったんだって!!
「困りましたねえ…」
「困っただなあ…」
兄ちゃんと母さんが、それぞれ重いため息を吐き出す。ああもう、オレにどうしろっていうの!!
そりゃ、オレはいいよ?正直、父親なんてうざったくなる年頃だし(とはいえうちの父親は規格外過ぎて、うざったくなるどころか何考えてるかさっぱりわからなくて怖ろしかったが)、日頃から一銭も稼いでない父さんがいなくなっても生活には困らないもんな。
それに、こういっちゃなんだが、オレ的には兄ちゃんの方が父親っぽかったからなあ。ガキの頃はもちろんのこと、学校に行けといったのも兄ちゃんだし、試験について来たのも兄ちゃんだった…。
父さんはなんていうか、悪いことを教えてくれる近所の兄ちゃんみたいなノリだった…。
近所の兄ちゃんがいなくなっても特に困らないが(会おうと思えばいつでも会えるしね)、それはあくまで次男のオレの場合であって。
母さんと兄ちゃんは違うんだよ!そのくらいわかってくれよボケボケ親父ー!!
「また急に、いなくなっちまって…。悟空さにはいっつも驚かされるだ」
「いきなり天下一武道会に出るっていいだしたときに、イヤな予感はしたんですけどね。まさか一試合目からいなくなるとは…」
ああ、空気が重い!重すぎる!助けてトランクスー!!と思って、アイコンタクトを試みると、思い切り目を逸らされた。なんて友達がいのないヤツ!おまけに一緒にいたベジータさんまであらぬ方向へ目をやったよ!って、ああ、ブルマさんまで!カプセルコーポレーション一家め、そんなに今の孫家と関わりたくないか!うん、その気持ちすっごい良くわかる!
誰か、悪の魔人ブウでもいいから誰か、ここから俺を連れ出してくれえ!!
「困っただなあ…」
「困りましたねえ…」
「悟空さの賞金、当てにしてたんだがなあ…」
「え、そっち!!?」
俺は思わず、重い会話に口を挟んでしまった。だってそっちなの!?結局金なの!?愛はお金で買えちゃうの!?
「だって悟天、お前じゃ準優勝できないだろ?優勝はお義父さんだとしても、準優勝したかったんだよなあ。準優勝でも結構な賞金が貰えるからさ。でも、今のお前じゃ、ブウさんにも勝てるかどうか…」
兄ちゃんがめちゃくちゃシビアな目でオレを見ている。うう、そりゃ勝てませんよ!修行してないし。万が一勝てても、トランクスに勝てるかは怪しいし(だってあいつの場合、ベジータさんが見てるから、命かかってるもん)、トランクスに勝てたとしても、あの修行の鬼、重力室の住人、ベジータさんに勝てるわけないって!!
「パンも泣くだろうしなあ…」
「まったく、孫不幸な祖父さんだべ」
ああ、パンちゃんはとうさんに懐いてるからね。修行している父さんが、パンちゃんには世界一格好良く見えるらしい。兄ちゃんが影で悲しんでいたのを知っている。女の子って不思議だよな。オレだったら断然、学者として将来有望な兄ちゃんのほうがいいと思うけど。
まあ、そんなことは置いておいて、だ。オレはおそるおそる尋ねた。
「母さんは、いいの…?その、いきなりいなくなって、大丈夫なの…?」
規格外な父さんだけど、夫婦仲はいいんだ。ときどき母さんが怒ったりするけど、そういうとき父さんはひたすら謝るし。負けるが勝ちとはよくいったもんだよね。
いっつも修行してて、家族サービスという言葉も知らないようなダメっぷりだけど、食事時にはちゃんと帰ってくるしねー。こんな風に、いなくなったりすることはなかったのに、母さんは大丈夫なんだろうか。
そう心配していると、母さんはなぜか不思議そうな顔をして、それからああ!と手を打った。
「そっか、悟天は知らねえだな。悟空さも、二回目に生き返ってからは、いなくなんなかっただな」
「ああ、それでそんな、不安そうな顔をしてたのか、お前。大丈夫だよ、安心しろ。そのうちひょっこり帰ってくるから。賞金がないのはきついけど」
まだ賞金に拘るかこの兄ちゃんは!
「そうじゃなくて!オレはいいんだよ!オレは全然平気なの!でも、母さんと兄ちゃんは…、辛いだろうし……」
ちくしょう、こんなこといわせるなよ、バカ親父!ほんとのほんとに大馬鹿だぞ!!
「大丈夫だ、悟天ちゃん。こんなことで離婚するようなら、おらとっくに別れてるだ」
母さんは魔人ブウの気功波より怖ろしい発言をあっさり放って、のんびりとお茶を啜った。