クマ、としかいいようがないだろう。
 あんパンのように丸い顔に、申し訳程度についている耳。だらんとたれ下がったお腹に、長靴のような足がちょこんとついている。全体的にずんぐりむっくりしていた。毛は毛布のように柔らかそうで、枕にしたら気持ちよさそうでもある。
 正直にいおう。このとき悟飯が真っ先に考えたのは、これは敵か!?ということだった。
 ついさっきまでそこにはトランクスがいたはずなのに、あの子はこのクマ…?にやられてしまったのだろうか。
 そう思って瞬時に戦闘力を高めた悟飯の前で、クマは高らかに叫んだ。

「メリー、クリスマス!オレのクリスマスプレゼントです、悟飯さん!!」

「………………トランクス?」

「はい!」

「……………プレゼント?」

「はい!これはリラックマといって、癒しのクマなんですよ!だからオレ、あなたの癒しのクマになろうと思って!なんでもいってください、悟飯さん!肩でも足でも揉みますよ!!」

「………とりあえず、顔を取ってくれるかい…?」

 クマはいそいそと顔の部分を取り、脇に抱えた。
 そこにいたのは間違いなく、自分の愛弟子、一人前の戦士に成長し、大会社の社長でもあるトランクス(ただし顔から下はクマ)であった。
 悟飯は堪えた。おそらくチチも牛魔王も、ブルマも堪えたのだろう。青年の純粋な思いをわかっていたから。だが堪えきれなかった。
「あーはっはっはっっはっ!!!とっ、トランクス、なんだい、その着ぐるみは…っ!!」
「か、可愛いだ、トランクスさ…っ!」
「よ、よく似合っとるぞ…っ!」
「あはははは!!!可愛いわよ、トランクス!やだ、カメラ持ってくればよかったわー!」
 トランクスは顔をやや赤らめながらも、胸を張った。
「いいんです、いいんです!悟飯さんに笑って貰えれば本望です。だってオレは、癒しのクマですから!」
「だ、だって、キミ、ギャップがありすぎるよ…っ!アハハハハッ!お腹痛い…っ!」
 あんなに力強い気を放ち、限りない優しさを抱いていた青い瞳に抱いていた青年が、着ぐるみのクマで「オレがプレゼントです」なんていうなんて!
 呼吸困難に陥るほど笑いながらも、悟飯は心のどこかでホッとしていた。
(こういうところは、昔と変わってないんだな)
 こんなに格好良く成長したのに、愛弟子は相変わらず、変なところで可愛らしかった。




 ひとしきりいじり倒され、パーティが終わり、お風呂に入った後でも、トランクスはクマのままだった。
 寝室に二人分の布団を敷き終わった悟飯は、笑いながら顔だけトランクスのトランクスを見上げた。
「いつまでその格好でいるつもりなんだい?」
「クリスマスが終わるまでです!クリスマスプレゼントですからね」
「もう充分もらったけどね」
 肩も揉んでもらったし、パーティの片づけも手伝ってもらった。けれどトランクスは、それだけでは気が済まないようだった。
「でも、寝づらいだろう?寝るときくらいは、パジャマに着替えたら?」
「大丈夫です。頑張ります」
 大真面目な顔で弟子がいうので、悟飯はつい声をあげて笑ってしまった。
「キミ、意外と変わってないね、トランクス」
「そうですか?」
「うん。いい意味で、すごく変わった気がしてたんだけど、でも、変わってないところも多いみたいだ」
「それも、いい意味ですか?」
 いたずらな目で聞かれて、悟飯はうーんと考え込んだ。
「キミの将来が少し不安かなあ」
「ひどいですよ、悟飯さん。このクマ、お気に召しませんでした?」
「すっごく面白かったよ。だから不安だ」
 真剣な顔で答えてやると、弟子は大げさに嘆いてみせた。
「どうせオレは、浅はかな考えの男ですよ。セルにもいわれましたよ。でも悟飯さんだって良くないじゃないですか。生き返ったばっかりなのに忙しく働いて。いえ、働くのはいいんですけど、休んでも欲しいわけで、もうちょっとオレを頼って欲しいなあとも思うわけですよ」

 いつもなら、曖昧に笑ってみせるところだった。

 頼りにしてるよと、本当でも嘘でもない曖昧な答えを返して、流してしまうところだった。
(でも、キミはやっぱり、トランクスだから)
 光で、希望で、けれどそれらを抜きにしても、愛しくてたまらない魂だから。
「じゃあ、一つ、頼ってもいいかな」
「なんでもどうぞ」
「朝、オレより先に目が覚めても、ここにいて欲しいんだ。オレを叩き起こしていいから」
 本当のことを話し始めれば、トランクスの唇から軽さが消えるのがわかった。
「オレはまだ信じられない。夢を見ている気がするんだ。人造人間たちがもういないことも、キミが生きていることも、本当は全部オレの夢で、目が覚めたら、キミが、…死んでしまっているような気がする。それが一番怖い。戦うのはいいんだ。これが夢で、目が覚めたら戦わなくちゃいけなくても、そんなことはいいんだ。でも、目が覚めて、キミが、いなくなっていたら、オレは…!」
「悟飯さん」
 クマの手が、ぽんと、悟飯の腕に触れた。その柔らかさに、小さく微笑む。
「いつかは信じられるだろう。でも、時間がかかると思うんだ」
 ごめんと、喉元までせり上がっていた言葉を、必死で飲み込んだ。自分自身で理由もわからないまま、懺悔のように謝るのは卑怯だ。
「大丈夫ですよ」
 クマの着ぐるみ姿のまま、トランクスはにっこりと笑った。
「オレに悪いなんて、どうか思わないでください。あなたが不安を感じるのは当然だし、オレはあなたの不安に押し潰されるほど繊細にできてませんから」
 そして、クマの短い腕を伸ばして、トランクスは悟飯を抱きしめた。
「いくらだって、俺を呼んでください。あなたに呼んでもらえることがオレは嬉しい。あなたが生きていてくれて、オレがどんなに幸せか、伝わればいいのに」
 クマの体はふかふかとしていて、気持ちが良かった。母親譲りの美しい顔の下に、さわり心地の良いクマの着ぐるみがある。悟飯はまたそのギャップに笑ってしまって、目尻から涙がこぼれた。
(それは、オレの台詞だよ、トランクス)
 キミが生きていてくれてどんなに嬉しいか、伝わるといい。
「なんなら、オレを抱き枕にしてくれても構いませんよ。今日のオレは癒しのクマですから!気が済むまで側に置いておいてください」
 さあさあどうぞ!といわれて、悟飯は耐えきれずに吹き出した。





 翌朝。
 目が覚めると枕元には小さな包みが置いてあり、癒しのクマは「それはサンタクロースからの贈り物ですね」と言い張った。
 中にはカプセルコーポレーション最新モデルの携帯電話が入っており、クマは「サンタも気が利きますね!」と言い張った。
 説明書と睨めっこする悟飯の隣で、クマは素早く登録を終え、「短縮の一番がオレの番号です」と爽やかに言い切った。
「で、サンタクロースは、オレにコレをどうしろっていうんだい?」
「きっと、オレが毎朝、悟飯さんにモーニングコールをかけてもいいってことでしょう」
「………トランクス、キミ、本気?」
「もちろんです」
 力強く断言されて、悟飯は軽く眩暈を覚えた。
「……キミ、やっぱり少し、変わったんじゃないか」
「父さんの血を引いてますから」
「ベジータさんの血?」
「ええ、悟空さんと戦うためなら手段を選ばない父さんの血を引いてますから。オレも、悟飯さんの傍にいるためなら手段を選ばないことにしたんです」
 着ぐるみのクマが、美しい笑顔で凄いことをいったので、悟飯は思わず頭を抱えた。
 そして、一番問題なのは、この状況でも幸福に安らいでいる自分だと思った。








 終わった…!予定外に長くなってしまいました。拙い話ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いですv