見渡す限りの瓦礫の山、ではあるが、ブルマさんはもう諦めているらしい。修理代を請求する気はないと聞いて、チチさんも怒鳴るのをやめたようだった。庭にティーセットを持ち出して、のんびりお茶なんか飲み始めてる。
 オレは真っ先に18号と愛娘を避難させて、慌てている悟飯の彼女を宥めて、それから、苦笑いしているヤムチャさんたちに、何とも言えない困り顔で応えた。放っておけばいいんだけど、こういうときに放っておけないのが、オレなんですよ。ええ。損な役回りだけどいいの。
 悟天とトランクスはこんなときでも元気いっぱいで、かろうじて無事だった肉を口いっぱいに頬張りながら、どっちが勝つかなんていってる。
「オレはやっぱり、悟天のパパが勝つと思うな。あの世でもすごい修行を積んでたっていうし、オレのパパのライバルだしな!」
「そんなことないよー、にいちゃんが勝つよ。にいちゃんは世界一だもん。おとうさんなんかに負けないよ」
 か、かわいそうな悟空!おまえだって何回も地球を救ったのになあ…!
「そうかなー。悟飯さんも強いけど、全然修行してなかったじゃん」
「だけど、いつもぼくと遊んでくれたよ。魚取りだってにいちゃんが一番上手いんだよ。おとうさんなんかには負けないよ」
 あー、悟空…、ごめん、庇う言葉がみつからん…!
 そんな地上の会話をよそに、空中では激しい(そしてバカバカしい)戦いが繰り広げられていた。

「ピッコロなんて、昔は世界征服を企んでたんだぞ!」
「そんなの昔の話じゃないですか!それに、ピッコロさんだって、本当はそんなことしたくなかったはずです!」
「なんでそんなことがおめえに分かるんだ!」
「そんなの、大好きだからに決まってるでしょう!」

 わあ…、ピッコロのヤツ、これ聞いてるのかなあ…。悟飯は相変わらずすごいこというよなー。あいつが昔、ピッコロとおそろいの胴着(しかも手作りだ!)を着てたときも吃驚したけどな。

「そうか…、悟飯、おめえ、完全にオラを怒らせたな…」

 そんな凄みのある声でいうなよ!と、思っていたら、悟空の気がまた急激に膨れあがった。
 おいおい、まさか、うそだろ…!
 し、信じられねえ!悟空のやつ、たかが親子喧嘩で、スーパーサイヤ人3になりやがった!

「今ならまだ、謝れば許してやっぞ…」
「いやですよ!謝るのはお父さんのほうじゃないですか!」
「おめえはオラの子だぞ!」
「産んでくれたのはお母さんです!それに、いいたくないですけど、お父さんはほとんど死んでたから、育ててくれたのもお母さんです!」


「んだんだ」
「生き返ったばっかりで親子喧嘩したって、孫君に勝ち目はないわよねー」
「そんな、冷静にいってる場合ですか。悟空のやつスーパーサイヤ人3になっちゃいましたよ!チチさんも止めてくださいよ〜」
「心配ねえべ」
 チチさんはこくりとお茶を飲むと、とても可愛らしく笑った。
「二人とも、本気で殴ったりできるわけがねえんだから」
 ああ、やっぱりこの人は悟空の奥さんで、悟飯の母親で、そしてきれいな女性なんだなあ。
 オレはしみじみとそう思った。
 でも、しみじみしている地上とは違って、空中では相変わらず聞いていて悲しくなるような口喧嘩が続いていた。

「オラは昔ピッコロに殺されかけたことがあるんだぞ!」
「お父さんがなにか悪いことをしたんじゃないんですか!」
「おめえは父ちゃんが信じられねえのか!」
「ピッコロさんの悪口をいうようなお父さんは信用できません!」

 チチさんの言葉はやっぱり正しくて、二人とも気を高めながらも手はださない。組み手程度の動きはするけど、本気の動きじゃない。でも、やっぱり、気は凄まじい。地球のすみずみまで伝わっていそうな、空気の高ぶりだ。
 これが親子喧嘩じゃなかったらなー。オレだって「すげえ」っていってやるところなんだけど。

「ボクは、ボクは、ピッコロさんが大好きなんです…!」

 あ、悟飯のやつ、涙目になってる。本当に、底抜けに素直なやつ。悟空が透き通った心の持ち主なら、悟飯はたぶん、でっかい井戸みたいなやつなんだ。なんでも受け入れる。わがままな悟空だって、悪の心に染まっていたピッコロだって、受け入れて大事にするような心。あのベジータでさえ、悟飯にはちょっと甘い。

「でも、お父さんだって大好きなのに、なんでお父さんがピッコロさんを悪くいうんですか…!」
「ご、悟飯…」

 すうっと、悟空の気が下がっていく。うん、頭が冷えたな。
「孫くんの負けね」
「ですねえ」
 やれやれと、ブルマさんと顔を見合わせて笑う。その時だった。巨大で、そして邪悪な気が爆発したのは。

「カーカーロットォオオオ」

 ものすっごく凶悪な顔の男が、空中を、歩いてくる。怒りの気をゆらゆらと燃え立たせながら。
 い、いたのか!今まで出てこなかったから、てっきりどこかへ修行に出かけてるんだと思ってたのにー!!
「まずい、あいつ寝起きだわ!」
「しょうがねえべ。ひとさまの家でこんだけ大暴れしたんだ。怒られて当然だべ」
 チチさんはあっさり言い切った。確かにそうなんだけど、でも、オレとしてはやっぱりこういいたくなるわけで!
 逃げろ、悟空ー!!

「あ、ベジータ」
「ベジータさん」
「貴様ら、人の家をめちゃくちゃにするんじゃねえええ!!!」

 ベジータの手のひらに巨大な気が集中していく。やばい、やばいぞ、これで本当にブルマさんの家は壊滅だ…!

「親子喧嘩ならよそでしやがれー!!!」



 ベジータにしてはあり得ないほど真っ当な台詞と共に炸裂したギャリック砲は、最強親子の服を焦がしつつ、ブルマさんの家を全壊にしたのだった…。

 そして、その後には、呑気に「あぶねえなあ」と笑う悟空と、ひたすら謝り倒す悟飯の姿があった。
 うん。悟飯、お前、もうちょっと怒ってよかったと思う…。