中華街に行きましょう。



★肉まんを食べましょう。

 あーあ、固まってるなあ…と、ラディッツは横目でこっそり様子を伺いながら思った。
 美味しいですよ、おじいちゃんもちょっと食べませんか?と、そんな軽い口調で、悟飯は自分で一口かじった肉まんを、バーダックに差し出した。店先で肉まんを買ったときに、バーダックが「いらん」と無愛想に断ったのを、遠慮と受け取ったのか、どうなのか。たんに何も考えていないだけのような気もするが、悟飯はニコニコと、一口だけ食べた跡がある肉まんをバーダックに差し出している。
 差し出された父親といえば、ものの見事に、凝固している。
 もともと目つきのよろしくない父親が、よりいっそう目つきを悪くし、唇をきつく横一筋に結び、微動だにせず突っ立っていると、はっきりいって怖い。休日の街中は、はぐれないよう歩くのにもひと苦労するほど賑わっているというのに、バーダックの周りだけ自由空間が出来ている。幼い子供を連れた母親が、怯え顔で足早に避けていくのを見て、ラディッツは父親からそっと目を逸らした。介入はしたくない。あの状態のバーダックに下手に近づくと、自分のほうがぶっ飛ばされる。
 しかしバーダックが凍り付いているのにも一応それなりの理由があって、それはまだ、悟飯が頭にドラゴンボール付きの帽子を被って、ちまちま動いていた頃にさかのぼる。そのときも今と同じように、悟飯だけが肉まんを買って、バーダックに「おじいちゃんも食べませんか」と差し出して、そしてバーダックはうっかりと一口で肉まんのほとんどを食べてしまって(弁護しておくと、父親は肉まん購入時に別の店に行っていたため、悟飯の差し出した肉まんがそれ一つしかないとは知らなかったのだ)、ほんの少ししか残らなかった肉まんに、悟飯は大きな瞳からだーっと涙を流れ出させた……今思えば、バーダックは、幼少期の悟飯を無意味に泣かせまくっていた。ちなみにその肉まんを買ってあげたのはこの自分、素敵な伯父さんだ。
 トラウマを発動させたらしいバーダックは、おそろしく不機嫌な顔のまま突っ立っている。悟飯は不思議そうに首を傾げて、あっと小さく声をあげた。どうやら祖父のトラウマ発動に気づいたらしい。差し出した肉まんを一度引っ込めると、それを丁寧に二つに割って、片方をもう一度差し出した。
「どうぞ。美味しいですよ」
 淡く湯気が立つ半分を、バーダックは凶悪な顔で睨みつけると、無言で手に取った。そしてむしゃりとほおばる。上手いとも不味いともいわない。ありがとうの一言さえない。
 それでも、悟飯は幸せそうに笑っている。
 あーあと、ラディッツは先ほどとは違う思いで、視線を逸らした。



★栗の押し売りには注意しましょう。

「ホーラコレ、うまいよおいしいよ〜!ホクホクだよ〜!そこのオニイサン!ひとつ食べてミテヨ!ねねっ、おいしいデショ!?コレ今ならお買い得ヨ!お兄さん男前だからサービスするヨ!ホーラ、こんなに山盛り入れてあげる!だから一袋なんていわず、お土産に二つも三つも買っていってヨ!」
 今日はボクが案内しますね!と張り切って宣言した甥っ子の後ろを歩くこと約五分。
 ラディッツは、片手で顔を覆っていた。どうしよう、どうしてくれよう、この甥っ子。
(なぜたった5分の間に、栗が5袋ずつ両手にぶら下がることになるのか、オレには理解できん!)
 どれだけ効率よく栗の押し売りに引っかかれば、こんなに栗だらけになるのだろうか。何よりおそろしいのは、悟飯自身に押し売りに引っかかってる自覚がないところだ。お土産が出来ましたね〜なんてのほほんと笑っているが、その10袋の栗を見たらさすがのチチも怒るだろう。
 そして今、悟飯は11袋目の栗に押し切られそうになっている。
「おい、ラディッツ……」
 隣を歩く父親に、地を這うような声で呼びかけられて、ラディッツはため息をついた。スカウターがなくともわかる。父親の戦闘力はいま相当上昇している。
「ささっ、モットモット買っちゃってヨ、オニイサン!」
「うーん、でも、さすがにこれ以上は……」
「そんなつれないこといわないネ!」
「いらんといってるだろうが。栗はもう十分だ。言葉でいってわからんのなら、体に教えてやってもいいんだぞ」
 ラディッツがわざとらしく指を鳴らしてすごむと、インチキ臭い商人はさっと顔色を変えた。バーダックほどではないが、ラディッツも凄むとそれなりに目つきが悪くなる。あきらかに堅気ではない雰囲気を醸し出したラディッツに、栗の売人はそそくさと悟飯から離れていった。
 道端に3メートル間隔で立っているほかの栗商人たちも、パッと顔を背けるのを見届けて、ラディッツは悟飯に向き直った。
「すみません、助かりました」
「悟飯」
「はい」
「 ──── 頼むからオレの後ろを歩け!」
「えっ、でも、案内するのに……」
「後ろからいってくれればいい!お前が行きたいほうに行ってやるから、後生だからお前は先に行くな!先頭を歩くな!」
 そしてこれ以上栗を買うな!とは、いいたかったけれど、甥っ子の無自覚な顔にそこまではいえなくて、ラディッツはぐっと飲み込んだ。
 勢いに押されたように悟飯は頷いて、ラディッツの後ろに下がった。
 ほっと胸をなでおろしたラディッツは、歩き出した途端に、後ろから服の裾を(今日は戦闘服ではなく普通のラフな格好である)ちょこんと掴まれて、思わず振り返った。
 まじまじと見つめると、悟飯は少し恥ずかしそうな顔で、
「迷子になったら困るので、つかまっててもいいですか?」
 といった。
 なぜだか急性の動悸息切れに襲われたラディッツは、「え……あ、あ……ああ……、そうだな、今日は天気がいいからな!」というわけのわからない返事をしてみたが、悟飯が朗らかに「そうですね、いい天気だから混んでますね」とフォローしてきたので、ほっとしたようなちょっぴり残念なような複雑な気持ちになった。



★お土産はおいしくいただきましょう。

 大量に積まれた栗を前に、カカロットが格闘していた。
「うめえんだけど、剥くのがめんどうだなあ」
 もっと一気にがばっと食べたい、という弟のぼやきを無視して、ラディッツは仕入れてきた食材に向きあう。今日は何にしようか……小籠包でも作るか……と悩んでいると、弟の「よし!オラひらめいたぞ!」という溌剌とした声が聞こえてきた。
 ラディッツは、その響きに薄ら寒いものを感じて、ばっと振り返った。カカロットがひらめくと、ろくなことがない!というのは経験則だ。そして毎回毎回、弟は裏切って欲しい期待を決して裏切らない。
 振り返ったラディッツが見たものは、カカロットの五指の指先にそれぞれ浮かんでいる、豆粒サイズの ── 気円斬だった。
(はっ ──── ?)
 瞬間、理解する事をラディッツの脳が拒否した。弟のバカは一体何をしようとしているのだ。なんだあの小さな粒は。小さいくせに恐ろしい輝きを放つあの塊は。あれは、いったい……っ!!
「やめんかカカロットー!!!」
「えいっ!」
 カカロットの掛け声とともに、五つのミニ気円斬が山積みの栗の周りを旋回し、駆け抜け、切り裂き ──── そして、燃やし尽くした。
 一瞬の惨劇だった。一瞬で、栗だったものが、芯まで炭に変わった。
 そりゃそうだ。いくら豆粒サイズの気円斬とはいえ、製造者は、その気になれば地球すら容易く破壊できるパワーの持ち主だ。ちっぽけな栗なんか、あっという間に火だるまである。
 ラディッツは、わなわなと震える拳を、思い切り弟の脳天に落とした。
「なにをやってるんだ、きさまは!!せっかく悟飯が買ってきた土産を、全部食えなくしやがって!ふざけてんのか、おまえは!!?」
「わっ、わりいわりい、オラはただ、栗の皮を剥きたかっただけなんだけど……、焼き栗になっちまったな、はっ、ははっ……」
「どこが焼き栗だァ!どこからどう見ても炭栗だろうがァ!!目を逸らすなこのバカモノがー!!」
 弟の胸倉を掴んでがくがくと揺さぶる。するとそのとき、玄関から無邪気な声が響いてきた。
「ただいまー!ねえ、兄ちゃんのおみやげどこー!?栗たべたいー!」
「さっきお父さんが食べてたから、台所のほうじゃないかな。ちゃんと手を洗うんだぞ、悟天。そんなに慌てなくても、いっぱい買ってきたから大丈夫だよ」
 ラディッツは凍りついた。ついでにさすがのカカロットも、ううと小さくうめいた。根菜兄弟で、見つめ合うこと約一秒。
「にいちゃん、金くれ!」
「一分以内に戻ってくるんだぞ!時間稼ぎにも限度があるんだからな!?」
 ラディッツはがま口の財布を放り投げ、カカロットはそれをキャッチした瞬間に消えた。あの街に知り合いなどいないだろうカカロットが、どこに瞬間移動したのか知らないが、ラディッツとしては一刻も早く弟が栗を抱えて帰ってくる事を祈るばかりだ。
「く〜り、く〜り!」
「夕飯の前だから、あんまり食べ過ぎちゃダメだぞ」
「うん!にいちゃん、ぼく栗ご飯もたべたいな〜」
「そうだなあ。たくさん買ってきたし、おじさんに相談してみようか」
 孫兄弟の仲の良い会話が、少しずつ台所のドアへと近づいてくる。
 ラディッツは胃の痛む思いで、ドアが開くのが一秒でも遅くなる事を祈った。










エニシ様から「悟飯が歩き食べ用の肉まん買って、おじいちゃんはおっきなお口でばくっとひと口もらえばいいと思います」というコメントを頂いて、萌え滾って書いた話なんですが、あれ、ちょっと違う方向にいった気が…!
う、ううん、でもあの、おじいちゃんとまごは仲良しですよ!おじいちゃんがトラウマ持ちなだけで!
おじさんと甥っ子も仲良しです。古典的少女漫画レベルのじれったさです。