源平結婚



「政略結婚?」
あっけにとられて、将臣はオウム返しに尋ねた。経正はうつむいたまま顔を上げない。
「そりゃ、まあ、和議を強固なものにっつーのはわかるが…」
しかしあの頼朝に、平家の者を嫁がせるというのは。
「気が進まねえな…。第一、誰を送る気だ?」
「将臣くんだよ」
ひょいと、横から幼馴染が口を出す。煎餅を口にくわえたままフガフガと喋る望美に、将臣はため息をついた。
「食ってから話せよ。俺が何だって?」
「だから、将臣くんが頼朝のお嫁さんになるの」
将臣は沈黙した。無言で、じっと望美を見つめる。
「望美、俺の性別わかってるよな?」
「男の子だね」
「頼朝は実は女だったのか?」
「何いってるの、将臣くん。あんな髭の生えた女の人がいるわけないじゃない!女の子ならいくらなんでも、あんなに髭は伸びないよ!!将臣くんがいつも、保健体育の授業を睡眠時間にあててたって、そのくらいわかるでしょ?」
「じゃあなんで俺が頼朝に嫁ぐんだよ」
冗談にしても時と場合を選べと、なげやりに将臣がいえば、望美はなぜか胸を張った。
「男の子だからいいんじゃない!政子さんが『女の正室は自分一人で十分、側室もいりません。ですけど、男の正室ならまだ我慢して差し上げますわ』っていってもん!」
「おまっ、北条政子にまでそんなふざけた話をしたのか!」
「政子さん乗り気だったよー?」
将臣がばっと視線を源氏組に移せば、九郎は額をこすり付けんばかりに頭を下げ、景時は青白い顔で涙ぐみ、弁慶だけはのんびりとお茶を啜っていた。
「景時」
将臣は迷うことなく、一番話の通じる人物の名を呼んだ。
「どういうことだ?」
「ご、ごめんね〜、将臣くん!で、でもこれも、平家のため、源氏のため、ひいてはみんなのためなんだよ!」
「冗談だよな、景時?」
将臣はいつになく優しい顔で尋ねた。景時は、常になくキリっとした顔で答えた。
「軍奉行梶原平三景時、鎌倉殿より預かりしお言葉を、平家総領たる小松内府殿に申し上げる。『祝言は八幡宮で挙げるぞ。そこは譲れぬ』……とのことです……」
将臣はふっと微笑んで、大太刀を抜いた。
「よし、わかった。お前らそこに並べ」
「お待ちください、還内府殿!お気持ちはわかりますが、なにとぞ…!」
「経正っ!お前までそんな、馬鹿げたことほざくのか!?」
「ちなみに最初は、お嫁に行くのは敦盛さんがいいかなって思ったんだよね。将臣くんと違って若いし!可愛いし!」
「……経正」
「還内府殿……」
将臣と経正は目と目で通じ合った。望美はのんびりと続ける。
「でも、敦盛さんみたいな繊細な人には辛いかなって、思い直したの。ほら、色々気を使っちゃいそうだし。その点将臣くんなら、神経もザイル並みだからバッチリかな〜って」
「そりゃお前にしちゃ考えたな。けど考えるべきことは、もっとほかにあると思わないか、望美?」
「どっちが花嫁さんやるかってこと?」
「そうじゃねえ!!」
たまらずに怒鳴りつければ、譲が眼鏡をくいっとあげた。
「先輩に怒鳴るなよ、兄さん。八つ当たりなんてみっともない」
「八つ当たり!?八つ当たりに見えんのかこれが!?譲、眼科行って来い、度があってないから!」
「まぁまぁ、落ち着いてよ、将臣くん。これも望美ちゃんを守るためなんだよ」
「そうだよ、兄さん。兄さんは雪見御所にいるから知らないだろうけど、白龍の神子である先輩を妻にしたいっていってくる連中が大勢いるんだ。今は九郎さんたちが追い払ってくれてるけど、何かあってからじゃ遅いだろ」
「それと、俺がムサイおっさんと結婚する羽目になるのと、何の関係があるんだ」
「それがね、望美ちゃんを奥さんにって言ってくるのは、ほとんど京の貴族とか、平家ゆかりの武家なんだよ。源氏の人間なら、望美ちゃんがオレの邸にいる限り手は出せないし、出させやしないよ。でもそっち側の人だとねえ…、みんな和議の保証が欲しいみたいで、必死なんだよ。困っちゃうよね〜」
将臣は渋い顔をした。和議がいつまで保たれるのかと、不安を感じている者がいることは事実だ。将臣のもとに、それとなく、源氏の娘との縁談が勧められる事もよくある。平和を続かせたいと願っての行動だとわかるから無碍にもできないが、結婚すれば安心というわけでもないだろう。
「わかった。そっちは俺が何とかする。望美に手出しはさせない。それでいいだろう」
「何とかするっていったって、兄さんのいう事を聞いてくれる人ばかりじゃないだろ」
「そうだよね〜。それに時間もかかるよね〜。そう考えると、将臣くんが頼朝様と結婚するって、すごい名案じゃないかな!還内府と鎌倉殿が一緒になるんだよ!これ以上ないくらい、確実な和議の保証だと思わない?」
「きっとみんな安心しますよね。さすがは先輩です。俺には到底思いつきませんでしたよ」
「やだ、そんなに褒められると照れちゃうよ〜」
えへへと頬を染める幼馴染と、そんな彼女をこれ以上ないほど愛しいげな目で見つめる天地白虎。
将臣は、無言で術を唱えた。還内府がラスボスor中ボスのときのみ使えるアレである。
しかし不意打ちの一撃も、察していた二人によって阻まれてしまう。
将臣は、金属性なんてこの世から消えればいいのにと思った。
「だからね、将臣くん。望美ちゃんのためだと思って、頼朝様と結婚してくれ」
景時は、景時ルートの対頼朝のスチル並みに真剣な顔でいった。
「兄さんだって和議を守りたいだろ。結婚くらいいじゃないか」
譲は、その立ち絵に名前をつけるなら嘲笑だよねという顔でいった。
「そうそう、将臣くんならどこでもやっていけるって!頼朝様だって優しいところがあるかもしれないし!望美ちゃんのことは、オレが一生大事にするから、安心してよ!」
「そうですよ。それに頼朝ってよく見れば格好良いような気もしますし。俺も兄さんの結婚を祝福するよ。ライバルが消えるし」
「いい加減にしろよ、お前ら……!なにが望美の為だ!本音がだだ漏れてんじゃねーか!」
将臣はばんと床を叩いた。
「冗談じゃねえ!なんで俺が頼朝なんぞと結婚しなきゃならねーんだ!!どうしても、和議のために必要だっつーなら、九郎と結婚してやらあ!そのほうが何万倍もマシだぜ!!」
「まっ、将臣!待ってくれ、お前の憤りはわかるが、しかし俺は、男と結婚するのは、それだけは……っ!!」
勘弁してくれ、と泣き出しそうな九郎に、将臣はびしっといった。
「いやなら、源氏の総大将として、こいつらを何とかしろ!もしも止められなかったら、わかってるよなぁ、九郎…?」
くっくっくと、将臣は、どこぞの新中納言のように笑った。
「万が一のときは、俺がお前と結婚してやるからな。八幡宮でもどこでも式を挙げてやるぜ。当然、白無垢はお前が着ろよ、九郎」
「なっ、将臣!それはあんまりだ!俺だって、何度も景時をとめたんだ。でも、政子様が乗り気であらせて…!」
「そうかそうか、そんなに俺と結婚したいか、九郎」
ううっと苦悶の声をあげた九郎を見放して、将臣は地白虎に向き直った。
「景時、還内府からの伝言だ。一言一句たがえず鎌倉へ伝えろ」
親指だけを立てて、首に横一筋、すっと線を引く。そしてそのまま親指を下におろす。
まさにキルユー☆な仕草である。
「俺と結婚したけりゃ、てめえが白無垢着やがれってな!」













「……という夢を見たんだ」
「有川……、それはいま話す必要のあることなのか…?」
情緒のないやつめ、といわんばかりの顔で知盛が見下ろす。
確かに、知盛の熱にさんざん食い荒らされたあとでは、ふさわしくない話題だろう。
だが、将臣はにやっと笑った。
「お前、途中まで、マジな話かと思ってただろ」
「……お前の行動はいつも、突拍子がないからな。夢でなくとも、ありえそうな話…だろ……?」
「ありえてたまるかよ」
将臣はげんなりした。エイプリルフールだから、夢だという事を伏せて語っただけで、夢を見たこと自体は事実なのだ。最悪な夢だった。
「……まぁ…、和議を壊したくなったときには…、鎌倉なり何処なりへと、嫁ぐがいいさ……」
「なんで壊すこと前提なんだよ」
政略結婚だぞ、と将臣が尋ねれば、知盛は不思議そうに将臣を見返して、小さく笑った。
「だから、だろう……」

お前の意志なく奪われるのに、黙って引き下がる者など、一門にはいないぜ…?

そう囁かれて、将臣は思わず首をすくめた。
囁く声が、その内容が、あまりに優しくて、くすぐったかったからだ。









白無垢は室町時代かららしいんですが、夢オチということで許してください…!