八葉には、術のほかに、協力技というものもある。
 これは、龍神の神子である望美がいないと発動しない術とは違い、八葉たちだけで使える必殺技である。望美がいないときでも、怨霊と戦えるようにという、龍神様のありがたいご配慮だ。
 しかしこの協力技には大きな問題があった。タイミングを合わせるのが、超難しかったのだ。



楽しい協力技の時間です。



 協力技は難しかった。天地の八葉や、血縁者、同郷の者など、比較的仲の良い二人、もしくは三人で行っているはずなのに、呼吸が合わない。合わせようと頑張っても、うまくいくのは百回に一回という奇跡的な成功率だ。
 それでもまだ、九郎や譲は良かった……。将臣は、大太刀を地面に突き立てて、心の中でしみじみとそう嘆いた。
 九郎のことは好きだ。あまり人を疑わないところも、剣術バカなところも、さっぱりとした性格も好ましい。立場の違いこそあっても、九郎個人のことはとても嫌いにはなれなかったし、和議も成ろうという今、仲良くやっていきたい奴だと思っている。
 だから、九郎と協力技を使うときに、毎回毎回あの長い髪が将臣の目を攻撃してこようと、そのせいでタイミングが合わずに、怨霊ではなく九郎と剣を交わしてしまっても、我慢できた。いい加減、お前はその髪を切れ!!と思ったことは数知れず、実際口にした事も何度もあるが、しょんぼりと肩を落とされて「すまん……」と謝られれば、将臣もそれ以上強くはいえなかった。なにやら願掛けをしているらしいと望美から聞いてからは余計に、九郎の髪には諦めがつくようになっていた。
 譲だって、ときどき、「おまえっ、わざとこっち狙ってねーか!!?」と叫びたくなることはあった。しかしそれは主に、将臣がふらりといなくなり、また、ふらりと望美たちの前に現れたときであったので、将臣も文句などいえるはずがない。どんなに譲の矢が怨霊ではなく、実の兄である自分を狙っている気がしても(いや、実際狙っていたと思うが)、それでも夕食は自分の分もきちんと用意されていたのだ。一人で望美を守り、助けて、おまけに食事まで作ってくれる弟の、八つ当たりの矢くらい避けられなくては有川将臣の名が泣くだろう。
 まぁ、譲の矢を避けることに必死になって、うっかり怨霊にどつかれた事も一度や二度ではないが、基本的に食べれば回復するというお得な体質であったので、将臣は耐えた。痛みは我慢して宿に戻り、譲作の食事をもそもそと食べると、けろっと治るから不思議である。ついでに、そういうときは、微妙に将臣のご飯が大盛りになっていたりするので、なんとなく得した気にもなる。
 だから、九郎や譲との協力技は良かった……。
 というか、なんで俺だけ、八葉でも黒龍の神子でもない、血縁関係もまったくない相手と協力技があるんだよ!
 俺に何か恨みでもあるのか、白龍!!
 そう、将臣が心の中で盛大に嘆いていても、状況は変わらない。
 目の前には平家の指揮から外れた怨霊がおり、隣に望美はいない。いるのは、くっと唇の端で笑う男だけだ。
「さて……いかがする、兄上……?」
「てきとーに攻撃しろ、てきとーに!」
「それはすでに、さんざん試したと思うが……?」
 知盛のもっともな指摘に、将臣はぐっと歯を食いしばった。喉の奥から、虎のような唸り声が漏れる。確かに知盛のいうとおり、このままではラチがあかないし、こんな道端で怨霊相手に長期戦をできるほど還内府は暇ではない。
 いっそ、寝転がってばかりの新中納言に全て押し付けて逃げ出したい……と、将臣は遠い目をしたが、そんな真似をした日にはどんな報復が待っているかわからない。
 将臣はしぶしぶと、剣を握りなおした。
「知盛、わかってんだろうな?」
「無論、わかっているとも……」
 知盛が二本の刀を軽い動作で構えなおす。それを目ではなく肌で感じ取って、将臣は右から突っ込んでいった。
 作戦は単純だ。将臣が囮となって引きつけた瞬間に、知盛が討つ。将臣はできるだけ派手な動作で、大太刀を振るった。だが、そのとき。
 がんという鈍い音とともに、将臣の剣に圧力をかけてきたのは、怨霊のひづめではなかった。
「とーもーもーりいいいいい!!!」
「くくっ……」
 切り結んだのは、美しく、優美な線を描く、将臣の無骨な大太刀とは正反対の刀。それでいて、大太刀を叩き落さんばかりの強さを持つ、知盛の剣だった。
「てめぇ、わかってるっつったじゃねえか!!」
「わかっているとも……」
「どこがわかってんだ、このボケ!寝ぼけてんのか、状況を見ろ、状況を!!お前の遊びに付き合ってる暇があると思うか!」
 ぐぐっと剣を押し返しながら、怒鳴りつける。すると知盛は、いっそう唇をゆがめて笑った。
「状況なら、お前よりもよく、見えているさ……」
 なんとか知盛の剣を払いのけて、将臣はすぐさま距離を取った。怨霊はまだ、殺気に満ちた目でこちらを見ている。それでも動かないのは、知盛の放つ気に押されてのことか。
 舌なめずりをするような笑いで、底知れぬ声で、けれどその瞳だけは冷静なままだ。知盛の真意は、将臣には読めない。おそらくは、知盛以外の誰にもわからない。
「和議が成れば……還内府殿は、元の世界にお帰りになる……。それを、望まぬ者がいたとしても、おかしくはなかろう……?」
 戦場において、知盛の動作は、常に軽い。土を踏む足も、空を斬る切っ先も、何もかもが蝶の羽のように軽やかだ。
 そして、その軽さの分、恐ろしい。
「なに、命までとはいわぬ……ただ、少し、床から起き上がれずにいてくだされば良い……。そうだな、足の一本でも貰っておこうか」
「さらっと怖ぇこと言ってんじゃねえよ……っ!」
 どこまで本気なのか、どこまで冗談なのか。あるいは、どこまで正気なのか。
 将臣にはわからない。いつだってわからなかった。それでも、将臣がなすべきことは、いつだって一つだ。
「とりあえずてめぇをぶん殴ってから、怨霊をぶん殴って、その後もう一回ぶん殴るからな、知盛!」
「くっ……、やってみろ」

 そして、ただの道端だったはずのそこは、火花散る戦場と化した。





 そんな酷い目に合った数日後。
 将臣は遊びに来ていた望美と譲に、こんなことがあったんだぜーと軽いノリで愚痴っていた。
「だから、俺はあんまり、協力技は使いたくないんだよなあ」
「将臣くん、それ、協力技のせいじゃないと思う!!」
「そうだよ、兄さん!どう考えたって、知盛が危険人物っていうか、ちょっと異常じゃないか!!そんな奴と一緒に暮らしてて、大丈夫なのかよ!」
 身を乗り出していう望美と譲の勢いに、将臣は思わずのぞけって、曖昧に頷いた。
「あ、ああ、まあな……。けど、ほら、九郎と協力技使った時だって、あいつの髪に攻撃されるしな。まあ、同じようなもんだろ」
「全然違うよ!」
「全然違うだろ!!」
「そ、そうか……」
 目の色を変えて主張する二人に、いやでも知盛と協力技使うと毎回あいつと切り結ぶ羽目になるんだぞ、とは口が裂けてもいえない将臣だった。








 はる3を知らない相方さんに、「協力技っていうのがあって、MPじゃなくてHPを消費するんだよ。変わってるよね〜」と説明したときに、「それ、お互いに協力じゃなくて、攻撃してんじゃないの?」といわれて爆笑して書いた話です。もっと軽いノリにしたかったんですが…!いつかリベンジしたいです。