「不思議な心地良さがありますね……。持ち主が取りに来るまで、これをかけたまま仕事をしてみましょうか」



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「経正」
 篝火の照らすあかあかとした夜の中で、還内府殿が私の名を呼ぶ。
 はい、と振り向けば、彼は上機嫌に笑った。
「飲んでるか?」
「飲んでおりますよ」
「ん、ダメだ、もっと飲め」
 そういって、どぼどぼと盃に酒を注がれる。珍しく酔っておられるようだ。無理もない。今宵の宴はみな酔っている。声高に笑いあうもの、ふらふらになりながら踊り狂うもの、しまいには感極まったように泣き出すものまでいる。
 それほどに、平家は一時期、落ち目だったのだ。
「お前のおかげだ、経正。ほんと、助かったぜ」
「私の力など微々たるものです。このような日を迎えられたのは、還内府殿のご尽力あっての事でしょう」
「まだそんなこといってんのかぁ?謙遜しすぎだぜ、お前」
「本当のことですから」
 はあっとため息をついて、還内府殿がごろりと寝転がる。風邪を引いてしまいますよ、と宥めれば、風が気持ちいいなと、返事にもならない返事が返ってくる。
 だが、私はそれ以上とがめはしなかった。
 夜の春風が心地良い。平家は再び、満開の桜を見るだろう。
 願わくば、そのときには、いつまでもこの方がいてくださればいいと思う。
 私の言葉は謙遜ではなく、ただの事実だ。私一人がどうあがいたところで、何一つ変えられはしなかっただろう。私の隣で、夜風に身を委ねているこの方がいなければ。
「還内府殿」
「ん?」
「桜を見ましょう。来年も、再来年も、どうか私達とともに桜を愛でてください」
 ふと彼が笑う気配がした。私のいいたいことが分かったのだろう。
 彼は穏やかな声で、そうだな、と頷いた。



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 経正兄上GOODEND(友情END)