「ふふ、せっかくですから還内府殿にも見ていただきましょうか」



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「経正」
 呻くような声だった。当然だろう。私はこの方を押さえつけている。それも怨霊の力で。
 還内府殿がどれほど鍛錬を積もうと、決して叶うことのないこの穢れた力で。
 私は唇を震わせた。声が出なかった。なにをすればいい。なにをいえばいい。謝ればいいのか。それで許されるはずもないというのに?
 私はただ願った。還内府殿が一閃のうちに私を切り捨ててくださる事を願った。この狂った力で彼の両腕を押さえ込んでおいて、よくもそんなことを願えると思う。私は私を嘲笑する。
 だが、とめられないのだ。
「……っ還内府…殿…!」
 逃げてください。私はそういえたのだろうか?私が吐き出す息の下で、将臣殿が眉根を寄せる。ひどく辛そうに、苦しそうに。それを見て、私は嬉しいと感じた。人の苦痛を見て嬉しいと!
 ああ、やめてくれ。私を壊さないでくれ。いっそ消してくれ。私は、私は、あなたにこんな真似をしたいわけでは決してないのに!
「経正」
 将臣殿が私の名を呼ぶ。まるで宥めるように、優しく、私を呼ぶ。
「大丈夫だ、経正。このくらいなんてことねえよ」
「……逃げっ…て、くだ、さ…い……」
「大丈夫だ、苦しむな。好きにしていい。お前の好きにしていいから、苦しむな」
 私は首を振る。なんと愚かな事をおっしゃるのだろう。私があなたに何をしようとしているか、わからぬほど稚拙でもないだろうに、なぜあなたは笑うのか。
「命令だ、経正」
 将臣殿の全身から力が抜けていることに、私はようやく気づく。しなやかな体が、まるで贄のように私の目の前に差し出される。
 ああ、どうか、許してください。私はあなたを愛している。けれど決してこんな意味ではなかった。肉欲を伴う想いではなかった。ひたすらに親愛の愛だった。それを今まさにこの手で打ち砕こうとしているけれども。
 将臣殿、どうか信じてください。私はあなたを愛していた。



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 経正兄上BADEND(兄上怨霊化END)