かつて、彼は虚数の中に住んでいた。



ミスター・ロジックの伝説




 ゲ〜ロゲロゲロ、ゲロゲロリ。20○×年□月△日、我輩の野望に満ちた企みが、強力な武器を伴って発動した。本日はまさしく侵略日和な晴天であり、お天道様にだってェ俺の野望(主成分:ガンプラ)は止められねえゼ!……なはずであった。しかしまたしても、最強の敵が我輩の前に立ち塞がった!
 凶悪無比にして残虐な敵の前に我輩は…我輩は…ッ!
「あーあ、こんがりと焼けちゃったね、軍曹」
「美味しそうな匂いがするですぅ」
「ふん、自業自得だ」

 我輩は、立派な焼き蛙となっていたであります。

 酷い!酷いよこれ!なんで我輩こんがりしてるの!?ちょ、匂いをかがないでタママ二等!我輩食用じゃないであります!食べられませんて書いてあるであります!
 そもそもギロロ君、あ〜た、寝返りすぎ。
 夏美殿を贔屓しすぎでありますよ!まったくこれだから軍隊育ちは困っちゃうよねぇ。免疫がないところに、ずきゅーんと来るとズコーンと落ちちゃうんだから!手に負えないでありますよ!
 だいたい今回悪かったのは我輩じゃないと思うんであります!
 真の悪者はアレ、クルル曹長の『愉快な夢製造器クルル5号』でありますよ。てゆーかクルル曹長が悪いんじゃない?だってあの黄色、愉快の基準が壊れてるんだもん。我輩のせいじゃないもーん!
「でもぉ、クルル先輩は、昔はああじゃなかったんですぅ」
 タママ二等が、我輩の心を察したようにいった。こんがり焼けている我輩には見向きもせずに、手元のお菓子を漁っている。タママ二等、ほんとに我輩のこと好きでありますか…?
「え…、まさか、もっと嫌な奴だったの?あれ以上陰険に?」
「ちがいますぅ!フッキー酷いですぅ」
 いやー冬樹殿は悪くないっしょ。今のクルルを見ていて、昔のクルルを想像できる人は居ないと思うでありますなァ。我輩もあの頃はまさか、あの少佐がこんなになっちゃうとは思わなかったでありますよ。
 そんな我輩の呟きを無視して、タママ二等は胸を張った。
「クルル先輩は、昔はもっと格好良かったんですぅ」
「……えーっと、それは冗談なの?僕は笑うべき?」
「ほんとですぅ!軍じゃ”ケロンの賢人”とまでいわれてたんですぅ。冷静沈着で、どんな非常事態にも動揺せず、その明晰な頭脳を持って不可能を可能にする天才ですぅ!クルル少佐といったら、軍曹さんなんて足元にも及ばない有名人、ケロン軍人の憧れの星でしたぁ」
 なんでそこで我輩を引き合いに出すのよ!?まったく、わかってないでありますなァタママは。我輩は大器晩成型なの!知る人ぞ知る、都会の隠れ家的オアシスなの!
「昔から人付き合いは悪かったみたいですけどぉ、そこがまた格好良いなんていわれてて、孤高の天才なんて呼ばれてたんですぅ」
「軍曹ー…」
 冬樹殿が、救いを求める目で我輩を見たであります。うん、我輩も、「ナンチャッティ〜♪」と言ってあげたいのは山々なんだけどね。
「……嘘は言ってないでありますよ、冬樹殿」
「ええ〜〜〜!?!?だって、あの、クルルが!?はっ、わかった、何かの実験に失敗しちゃったんだね!?宇宙人の秘密の実験だもの!そりゃなにがあったって不思議はないよ!世の中にはまだまだ僕の想像を遙かに超える事実があるんだなぁ!で、何の実験だったの!?なにが原因で精神にまで影響を及ぼすような汚染物質が産まれてしまったんだい!?」
「ぜんぜん違いますぅ。クルル先輩が、ああなっちゃったのは── 」
 タママは一度言葉を切ると、部屋の隅っこで黙々と銃を磨いてる赤いのをちらりと見て、声を潜めた。
「ギロロ先輩のせいですぅ」
 その瞬間、ぎろりと音がした。ような気がした。

「タママ二等、いま、何かいったか?」

 あかあかと燃える眼で睨み付けられて、タママがひっと悲鳴を上げた。
 ギロロみたいなのをむっつりスケベというに違いないよね。我輩常々思っているでありますよ。いつも銃磨いてるくせに!こっちのことなんか興味ないヨネ〜安心安心!と思って我輩がガンプラに手を伸ばした瞬間、我輩の後頭部に突き刺さる銃身!心臓に突き刺さる殺気!
 ああ、大急ぎでお菓子を口に詰め込んで何でもない振りをするタママの気持ちが、我輩痛いほどわかるであります。
「だって、だって、ほんとのことじゃないですかぁ!みんないってたですぅ。ギロロ先輩と話すようになってから、クルル少佐は変わったって!ねェ、軍曹さん!?」
「え、そこで我輩に振るの!?」
「くだらん。クルルが嫌な奴なのは昔からだ。アイツは昔からちっとも変わっとらん!」


 それは嘘だよねェ、ギロロ。いや、それとも、ギロロに限っては本当なのでありますかなァ。
 ねえ、クルル?







続きます。