まァ、良くやったほうじゃねェの。
足りない物資に足りない兵力、地の利もあちらさんの情報もとぼしい中で、これだけの人数を生かして帰すんだ。良くやったほうだろーよ。
こういう時に、自分だけ逃げ出すヤツもいれば、こんな風に命を張ってみせるヤツもいる。どちらにしろ良くあるパターンだ。
どちらを見せられたって、今さら俺に感銘は湧かない。気だるさに耐えながら、俺はノロノロとパネルを一つ叩いた。最後の通信だ。
「遺言はあるかい?」
前線の男は、少し笑ったようだった。
『お前が、預かってくれるのか?』
「正確には、かろうじて生きてるシステムがな。クークックック、あんたの声を保存して、身内に届けてやるよ。行き届いたサービスだろォ?」
『くだらん。そんなことでエネルギーを消費するな。お前が伝えてくれればいい。─── 必ず、生きてかえると』
やなこった。どうして俺がそんなこと覚えていなくちゃいけねェのよ。
何十、何百と繰り返して、これからも繰り返すことだぜぇ?覚えてられるかよ。
「……ケロロ、軍曹……?」
「ぎゃっひー!!シンナーが!シンナーが零れたァァァァ!!」
データを右手に、パソコンを左手に持って開いた部屋は、ひどい有様だった。
まずシンナーくさい。どんだけ盛大に零したんだよ。これ、換気しないと普通に死ぬんじゃねぇ?
大騒ぎしている緑軍曹の周りには、ガンプラが所狭しと並べられている。誰がなにを愛好しようと俺の知ったことじゃないが、これだけあるとキモイな。つーかどこで寝るんだよ、コレ。
「ハァッ、ハァッ、ドアを開けてくれてありがとうであります!」
俺は無言で、データを目の前につきだした。
「なんでありますか?」
「遺言」
ガンプラを握りしめた男は、ガンプラを握りしめたまま、データを押し返した。
「あー、いらないであります。捨てといて」
「…イイのかい?」
「赤ダルマのいうことなんて、いっつも同じでありますよ。バカの一つ覚えであります。そんでいっつもホントに帰ってくるんだもん。心配するだけ無駄無駄無駄ァ!…って、あれ…」
そこで初めて隊長は、何かに気付いたようだった。
「あ〜、そっか、クルルは初めてでありましたな。え、ええっと〜、その〜、大丈夫でありますよ?ホンキで死ぬと思ったら、遺言なんて残さないからネ、赤いのは!」
俺は無言のまま隊長の部屋に押し入り、ベッドの上に積まれたガンプラたちを、ベッドシーツごと床に叩き落とした。
「ギャアアアア!!!なにすんのオオオオオ!!」
「寝る」
「家帰って寝ればいいジャン!!イヤァァァァ!!我輩のガンプラがぁぁぁ!!」
そこら中に響き渡るような悲鳴を無視して、俺はベッドの上に寝転んだ。あー、さすがに一週間寝てねェとキツイな。
躊躇なく睡魔の手を取りながらも、俺はなんとか指を動かして、パソコンの画面に触れた。起動条件をセットして、薄く笑う。
「隊長ー」
「ナニ!!?」
「起きたときに戻ってきてなかったら、この隊での俺の記憶は全消去されるんでヨロシク」
「ハァァ!?なにいってるでありますか!ちょっと、寝ないでクルル!」
「つーかもう九割方消したんだけどな…、生きてるのかよ…、メンドクセェなあ…」
生存確率が5割を切ったときから、準備を進めてきたってのに。
遺言を受け取ったときには、ほとんど他人だった。遺言を渡したら、その瞬間に断ち切ると決めていた。
全ての記憶を消去して。
俺のいうことをようやく理解したらしい隊長が、キッシャーと奇怪な叫び声を上げた。
「あーたって人は!どうしてそう極端から極端に走るノー!!起きるまでに帰ってくるとは限らないでありますよ!寝ないで!寝ないでクルル!」
イイじゃねえか、別に。
全データが破棄されて、俺の頭の中が空っぽになっても、問題ねぇダロ。
あの人が生きて帰ってくるなら。
ひどいのは伍長なのか軍曹さんなのか。とりあえず可哀相なのは曹長です。