聞いてくれ。おれだって今までなにかと苦労してきたんだぜ、シャウ!
子供の頃から政府直属の諜報機関で働いて、時には命がけで任務を遂行してきたんだ。そりゃ、サイファー・ポールってなんか格好良いよなってだけで就職先を決めたのは、少しまずかったもしれない。でもおれは頑張った!周りからは戦闘の天才なんて称えられるほどに頑張った!
四式を使えることがどれほどスゴイか、おれは世界中に叫んでやりたいぜ、シャウ!
おれは断言する。悪いのはおれじゃない。悪かったのは、周りの環境だ!というか主にCP9だ!どこのサイファー・ポールだって、新入りのミスはカバーしてやるものなのに!おれだって今までそうしてきたのに!
いっぺんのミスで殺されかけるなんて、ありえないっしょ!普通!
海に飲まれたときは完璧に死んだと思った。海イタチっていっても、海の生物じゃないんで、おれ。海中では生きられないんで。
この島に流れ着いて、なにか勝手に勘違いしてくれた島人たちが手厚く看護してくれたのは、幸運だったと思う。不運が降り注いだのは、大分回復したおれが、この後どうするかなー今さら戻れないしなーエニエス・ロビーも燃え立っていうしおれも死んだことになってるだろうし旅にでも出ようかなーと、黄昏れていたときだった。
ぽんと肩を叩かれて、振り返ったのが運の尽き。
「元CP9なんだって?」
この島一の有名人かつ権力者が、おれを見てうっすらと笑った。
「ちょうど良かった。うちで秘書をやらないか?」
〜ネロのドキドキ秘書生活〜
そして現在、おれの朝は早い。サイファーポールにいたころよりも早い。
なぜかというと、朝には戦争が待ち受けているからだ。育つ歳でもないのにえんえん寝続けるバカ社長を、死にものぐるいで起こすという大戦争が!
「い、い、か、げ、ん、に、起きるっしょ!!」
「うるせーなー…あと五分……」
「あんたが五分で起きたためしがあるかァ!!くっ、毛布に張り付くんじゃない!」
この水の都ウォーターセブンの市長かつ、島一番の造船会社社長というエライ人は、とにかく寝汚かった。秘書に就職した初めての日、あと五分で起きるという言葉を真に受けて放っておいたら何と夕食まで起きてこなかったのだ。おれは改めてカリファさんを尊敬した。冷酷女とか思っててごめんなさい。こんなバカ社長を毎朝定時に起こせただけでも十分スゴイです。
「あー…、くそ、カリファはもっと優しく起こしてくれたのに……」
「優しく!?なっ、それって、つまりっ…あ、あんなことや、こんなことを!?」
いったいどういう起こされ方をしたんだバカ社長!なんて羨ましい!
「毎朝布団ごとロープでぐるぐる巻きにされて、巻き寿司みたいな状態でテーブルに着かされたっけなァ…」
「アホかー!!それのどこが優しいっしょ!!」
茨のムチでなかっただけ優しいのかもしれないが、それは比較対象がおかしすぎるだろう。そう思ったけど、そこまでは口に出さなかった。かわりに、なおも枕を抱え込もうとするバカ社長の腕の中へ、高速の突きを入れてやった。指銃とまではいかないが、効果は十分である。
「……枕をボロ生地にするのはやめろっつってんだろ…」
「されたくないなら、たまには時間通りに起きるっしょ」
余談だが、昔、秘書がいなかった頃は、大量の目覚まし時計をセットしていたらしい。そのころはなんとか自力で起きようと努力していたんだそうだ。ただし、秘書が出来てからは、もういいかと思って努力を丸ごと捨てたという。
本人からその話を聞いたとき、おれは心の中で拳を握って叫んだものだ。
──── 秘書っていうのは、社長を起こすためにいるもんじゃねえんだよ、シャウ!!
バカ社長をなんとか席に着かせ、おれはテーブルの上に朝食を並べていった。焼きたてのパン、新鮮野菜のサラダ、カリカリのベーコンにふんわりと焼き上がったオムレツ、仕上げにはマンゴープリンと香り高いコーヒーだ。自分でも惚れ惚れするくらいの手際の良さだね。
独身生活、長いからなァ…。
モテなかった訳じゃない(モテたわけでもないけど)。でもなー、職業柄、厳しいのよやっぱ。No.9の連中ほど人間捨ててる訳じゃないけど、No.1から8も、秘密厳守は基本中の基本だからねェ。自分の生活に深入りさせるような付き合いはできないから、帰ったら誰かが飯を作っていてくれる〜なんて、夢のまた夢っしょ。
おれは、ときどき考えてたんだ。この際カノジョにご飯を作ってもらうなんて夢は諦めるから、可愛い女の子に作ってあげたいなあって。
「──── それがどうしてこんなオッサンにメシ作ってるんだか…ッ!」
「うるせェぞ、ネロ。あ、そこの新聞取ってくれ」
「メシの時に新聞読むんじゃないっ!まずくなるっしょ!!あんたただでさえ味音痴なのに!」
「なにいってんだ?ちゃんと美味いと思ってるぞ。だから今度はオムライスを作れ」
「またオムライスか!この間散々作ってやったっしょ!」
もし、おれの次に秘書になるヤツがいたら、おれは絶対に教えておいてやろうと思う。バカ社長はオムライスさえ食わせておけばオッケーだと。このお子様味覚め…!
「もう、あんたいい加減に、家政婦の一人くらい雇えばいいっしょ。メシ作りなんて秘書の仕事じゃねェよ」
おかわりのコーヒーを注ぎながらそういえば、社長は小さく首を傾げていった。
「あぁ…、そうだなあ…。そうだな…」
少し驚いたような目をして、曖昧に頷いた社長は、でも、きっと、家政婦を雇うことはないんだろう。
元CP9なら雇えても、そこらにいる普通のおばちゃんを雇うことはできない。難儀な男だ。巻き込むことを嫌うその手で、市民たちを守ろうとしている。
まぁ、そういうのは、嫌いじゃないけどねェ。
「さて、今日の予定だけど、まず9時から議員たちとの打ち合わせ、その後9時半から市議会、11時には商工組合との会議、今回は鉄の値上がりについてだろうって話、でー12時に昼食を取ってその後に新聞社のインタビューが三本、終わったらプッチの漁業組合の連中が来てるんで会談、3時になったら海軍と新式の造船についての打ち合わせ、4時には税務課と来年の予算案について会議、5時には本社に戻ってきて職長たちと会議、6時に夕食と書類のはんこ押し、7時に設計課からウォーターセブンの耐水設計について新案を聞くと。なにか質問は?」
「ンマー、全部キャンセルしてくれ」
「ふざけんなァバカ社長!!」
おれがちゃぶ台をひっくり返す勢いで怒鳴りつけると、バカ社長はテーブルにべたりと頬を押しつけてそっぽを向いた。子供かよ、シャウ!つーか、いい歳したオッサンが泣き真似をするな!
「カリファはいつも全部キャンセルしてくれたのに…しくしく…。お前だって元はサイファー・ポールのナンバー・ナインなのに…しくしく…。どうしてお前はキャンセルしてくれねぇんだ…」
「あんたまさか、そんなこと期待しておれを雇ったんじゃねェだろうな…!?シャーーーー!!ありえねえっしょ!!どこにそんな馬鹿げた理由で人を雇う社長がいるっしょ!!」
バカだ。ほんとバカだ。わかってたけどバカだこの社長。変態と叫びながら四本足になった弟弟子のほうも相当キてたけど、バカ社長は無駄に権力がある分手に負えない。
「ンマー、拗ねるなよ。お前のこともちゃんと愛してるから」
「いっぺんマジで死んでみるっしょバカ社長…!」
ネロが社長の秘書になったらいいなという話です。そのまんまです。
ネロのイメージは、最初に見たときからずっと、『いいツッコミ』です。フランキーと戦ったときのツッコミが素晴らしかったから!(笑)