つい凝視してしまったのが悪かった。
すぐに目を逸らせばよかったものを、まさかという思いで目をこらしてしまったから、相手が気づくハメになったのだ。
目と目があったとき、河埜は珍しく表情を崩していたが、それはたぶん自分も同じだったろう。
待ち合わせの十分前、新庄は思いもよらない姿を見つけて、目を瞬かせていた。
新庄と安仁屋のワクワクショッピング
そして待ち合わせ時間の十分過ぎても、安仁屋はまだ来なかった。
(あのヤロウ…)
新着メールがないことも確認して、新庄はノロノロと携帯をしまった。
(いつものことだけどよ)
野球部のメンツで待ち合わせすると、待ち合わせ時間より早く来るのは、御子柴と岡田と自分の三人だけだ。平塚と今岡は、たまにとんでもなく早かったり遅かったりすることもあるが、たいがいは時間ギリギリにやってきて、若菜と湯舟と桧山は時間より五分くらい遅れてくる。そして安仁屋は一番最後にやってくる。
だけど新庄は、誰かを待つのはそう嫌いではなかったし、特に野球部の連中なら、来ないかもしれないという不安に苛まれることもない。今日は天気も良かったから、駅前でのんびり安仁屋を待つのもいいだろうと思って、いつも通り十分前に来てしまった。
(やめときゃよかった…。気まずいんだよ…!早く来い安仁屋!)
河埜との間には、ひと二人分のスペースが空いている。目が合ってしまった以上無視もできず、新庄は近くはないが、そう遠くもない場所に座ったのだ。
「……まだ、来ねえのか」
顔を上げると、自分と同じくらい年齢不詳な男が、気まずそうに目を泳がせていた。
「ああ…。そっちもか?」
「まあな。江夏だからな…。なんだよ、おい、揉めんなよ?」
新庄は、うっと言葉に詰まった。
自分は揉めない。今も昔も、揉めるほどの怒りや苛立ちを、江夏に対して抱いていない。
嫌なヤツだったといわれれば、そうだったなとうっすら思い出す程度だ。そもそもあの頃の自分は、江夏より酷かっただろう。
だから、自分は揉めない自信があるのだが。
「俺はいーんだけどな…、あのな、俺が待ってんの、安仁屋なんだよ…」
騒がしい駅前の中に、小さな沈黙がおりた。
安仁屋と江夏、あのハブとマングース、あるいはゴジラとモスラのような二人が顔を合わせて、揉めないなんてことがあるだろうか?いや、ない。新庄は即座に結論付けると、待ち合わせ場所変更のメールを打とうとした。
だが、メールを送信するより、聞きたくない声が飛び込んでくる方が早かった。
「ついてくんじゃねーよ!このハゲ!」
「てめーがついてきてんだろーが!死ね!デッドボール食らって死ね!」
遅かった。ゴジラとキングヒドラはすでに戦いのゴングを鳴らしていた。新庄は帰りたくなった。
「おー、新庄、悪かったな、遅くなっちまって。このバカのせいでよ」
「けっ、バーカ。時間も守れねえのかよ」
「んだとてめえ!」
さっそく江夏の胸ぐらを掴んだ安仁屋に、新庄が慌てて立ち上がると、隣の河埜がたんたんといった。
「江夏、待ち合わせは十時だ」
新庄は思わず自分の時計に目を落とした。現在十時十五分。確かめなくてもわかるが、自分たちの待ち合わせ時間も十時だ。
(おまえら二人とも遅刻だ…!)
新庄はモヤッとボールを投げつけてやりたくなったが、江夏はなぜか胸を張った。
「だからなんだよ?早えだろーが」
「まぁ、いつもよりはな」
「いつもよりっておまえ、いつもどんだけ遅刻してんだよ」
安仁屋が唖然とした顔で尋ねれば、江夏はなぜか誇らしそうにいった。
「最高記録は三時間だ」
「アホかあああーーー!!」
全身でつっこむ安仁屋に心の底から同意しながら、新庄はおそるおそる河埜に尋ねた。
「おまえ、三時間も待ってたのか…?」
河埜は、それは深い溜息をついて答えた。
「待ってねーと、うるせーんだよ」
「……うちのピッチャー、安仁屋でよかったな…」
江夏と河埜は、受け攻めは決まらないというか、どっちがどっちでもいいのですが、江夏がわがままな妻で、河埜が黙々と苦労する夫というイメージだけは決まってます。