実はけっこう手が好きだ。

 たぶん、初めて好きになった人の指がやけに優しかったことを、よく覚えているからだろう。




てのひら






 と、言う話を、となりに寝る男にしたら、いきなり襲われかけた。
「なにしやがんだこのバカ西!!」
「ああ?手が好きなんだろーが」
「それとこれとなんの関係がある!?」
 のしかかってくる体を引っぺがそうともがくといきなりキスをされて、一瞬体の力が抜けた。
 が、しかし。
 ここで許したら明日一日棒に振るのと同義だ。

「坂本、テメ・・・・・本気で殴るか普通!?」
 腹を抱えてうずくまった男を見下ろして、ぜえぜえと息を吐きながら坂本は言った。
「お前に普通なんて言われたくねえ!俺は寝るんだ!邪魔すんな!!」
 それだけ宣言すると、さっさと布団に潜り込む。
 悪魔と出会ったら隙を見せないこと、腹を空かせた獣と出会ったら目を合わせないこと。坂本の人生における教訓である。

 やがて諦めたのか葛西が自分の布団に手を伸ばすのを感じて、それでも隙を見せるとどうなるかわからないので、寝たふりを続けた坂本の手に、不意に柔らかな感触が乗る。
 なんだと、疑問に思うまでもなく葛西の手だった。
 よく知っているはずの指が、まるで見知らぬ人のもののように優しく触れてくる。
 人差し指が、ゆっくりと人差し指に触れる。くすぐったさを感じるほど丁寧に、ゆっくりと、繰り返し。
 まるでなにかを恐れているかのように。 


 なにかに飢えているかのように。



 くすぐったかった。いつまでもこんな事されていたらよく眠れない。さっさと寝たいのだ。優しくなければ壊れるほどもろくもない。頑丈に出来ているのだ。もどかしいのも深く考えるのも後回しだ。なにが怖いのかなにが欲しいのか。
(そんなことうだうだと考えてられるか、俺は眠い)
 だから。


 かすかに触れてくる指を、手首から引っ掴んで、握り締めた。


 一瞬離れていこうとした指を力を込めて握れば、逆にきつく握り返されて。
 それでも、痛みなど気にせず掴んだままでいれば、やがてゆるゆると力が抜けていく。

 指と指を絡めあって、その体温に安堵して、やがて坂本は本当に眠りについた。