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□京神□ 「ただいま」 と、男がいったので、俺はもう全てがどうでもよくなってしまった。 血塗れの体は、そう長くはないだろうと、一目でわかった。 そんなことをわかってしまう目なら、いっそ見えなければよかった。 嘘です。ごめんなさい、今嘘をつきました。 見えなければいいなんて思ってない、たとえこの男が血塗れだろうとなんだろうと、死ぬ瞬間だろうと、俺は見ていたいだから。 だからどうか、どうか、どうか。 いかないで。 「篤司……?」 京悟の声が俺を呼ぶ。それが最後の一息になってしまうのが怖くて、俺は返事をしない。 「篤司……」 京悟の手が俺を探す。俺は酷く緩慢な動作で、その手を握る。 力など入らなかった。もう、目も見えていないのだと、誰かが耳元で囁いた気がした。誰もいない、この部屋で。 「きょーご…」 笑って、笑えよ。いつもみたいに傲慢に、俺にだけ優しく。それがあなたの優しさだと、唯一の優しさだなんてことくらい最初から知ってた。 そんな顔で笑わないでくれ。 もはや未練は無いとでも言うつもりか、未練ならあるだろ、あるだろう?俺は未練じゃないのか、俺は、こんなにお前でいっぱいいっぱいな俺は。 「ただいま」 それが最後に俺に残す言葉だなんて、酷すぎる。 |
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□斉神□ 乾いた風からは、血の匂いしかしなかった。 これほどに気持ちが静かなのは、心が決まったということなのか、それとも心が凍り付いているだけなのか。 答えのない問いを振り払うように、神谷は首を振った。 「行くんですか」 「……夜明けまでに帰らなかったら、お前が指揮を取れ、馬堀」 「…わかってます。その時は、俺が殺します」 馬堀の腕をもってしてもそれは難しいだろうと、思ってしまった自分に苦笑する。 これじゃまるで、死にに行くようだ。 乾いた風が乾いた砂を巻き上げる、その道を抜けて、森に入る。 男が、待っていた。 『よう』と変わらない仕草で手をあげたのはその人が先だったので、俺もただ、その名前を呼んだ。 「斉木さん」 昔も今も、俺はまるで、名を呼ぶことしか知らないようだ。 俺の火がどうか、消えませんように。 剣に手をかけて、祈る。 剣に手をかけながら、祈る。 なにも変わらないこの人を、この期に及んで笑っているこの人を、殺せるだろうか。そんなためらいが、生まれようと焼き尽くすこの火が、消えませんように。 俺も笑ってこの人を見ているのだろうか、今。 笑って、いれているだろうか。 この人が俺は理解できない。この人も俺が理解できない。俺達はあまりに遠い。 なのになぜ、あのころ、誰よりなによりこの人を失いたくなかったのだろう。 なぜ、今でも、この人と離れた直後の記憶が取り戻せないんだろう。 気が狂うほどに苦しかった思いさえ、いまはまやかしの過去のようだ。 「神谷」 「………なんですか?」 北と東、それぞれ随一の剣は、どちらがより闘神に愛されているのだろうかと、微かに考えた。 傷口の痛みより、流れる血の重みが気になった。 「神谷」 「…だから、なんですか?」 剣を向けた相手に、バカみたいに優しい目をするアンタは、やっぱり相当の阿呆だ。 「元気そうで、よかった」 とめてくれ。誰か。神でも悪魔でも死神でもいい、誰か。俺の命をくれてやるからとめてくれ。 振り下ろしてしまったこの剣をこの腕を、もぎとってくれ。 とめてくれ。 この人を殺さないで。 |
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□京神□ 願いが叶うならば。 たった一つの未来を俺にくれ。 神よ。俺は祈らない。愛してなどいないからだ。 愛してなど、いなかったからだ。 この剣にかけて。この命にかけて、俺は草薙京悟を憎んでいた。 今もまだ、憎んでいるのだ。 捧げる花は、それをくり返し刻むためだ。 『もういいよ、篤司』 (なにがいいんだ) 『もう、いいんだ』 (アンタはそうだろう、アンタはいつも執着を見せなかった。何も必要としなかった。アンタは、いつも) 『ごめんな…』 (俺は、祈りを捧げたりしない) 『いいよ』 (笑うな) 『祈りなどいらない。俺は、お前の心を手に入れた』 「違う!違う違う違う!!俺はなに一つ失ってねえんだ!何もなくしてねえんだ!京悟なんか最初っから、愛しちゃいなかった!!」 『そうだ』 (憎んでいたんだ、ずっと) 『お前は自由だ。俺なんかに、なんにも、縛られちゃいねえよ。だからもう』 (気まぐれに俺を拾って、気まぐれに生きて、気まぐれに死んだ。それが憎いんだだから) 『忘れろ』 「忘れねえよ」 呆気なく死んだ男は、未来永劫、憎まれるべきなのだ。 幾度となく従った優しく傲慢な命令にも、もう二度と、したがってやらない。 捧げた花束の上に、真白の雪が降る。 凍てつく寒さの中、少年は一度だけ空を見上げ、そのまま踵を返した。 絶望など、誰がしてやるものか。 神よ、俺は祈りなど捧げない。これは祈りなどではない。 宣戦布告だ。 全ての罪を背負ってなお、高みに立つあなたへの。 俺は必ずあの馬鹿を取り戻す。 |
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□京神deバスタード□ 拾われたのは、ただの気まぐれだったことを知っている。 彼は恐ろしく強かった。 魔人、魔王、魔物、彼を形容する言葉は多くあったがどれ一つふさわしいものはなかった。彼は強かった。 本当に強かった。自分など、その覇道になくても変わるまいと思った。彼の前ではちっぽけな存在だった。それは心地よく、同時にあってはならなかった。 必要とされたかった。 神谷篤司に、必要とされたかった。 やがて厭われた出生のままに、力をつけた。 精霊を従え、何千という軍隊を砕き、何億もの血を流し、ようやく彼の片腕とまで目されるようになった。 それでも彼に比べれば、本当にちっぽけな力だった。自分はそれを知っていた。彼も知っていた。だが彼は『世界を手にするにはあったほうが速い』、そういってくれた。 満たされた。 必ず世界を獲ろうと誓った。いやそれは、誓いですらなく、生きる意味とさえなっていた。 彼は、あまり笑わなかった。喜怒哀楽の激しい性格ではなかった。その身に炎を纏いながらも、彼は常に冷静だった。無茶をするのはいつもほかの四天王たちだった。 『涙がないんだ』とある日彼はいった。そして『なくても不自由はないけどな』と言った。 笑っていた。 だから曖昧に頷いて、そのあとで後悔しつづけた。 『泣きたいんだ』と、聞こえたのに。 「死ぬかもしれないな。奴は相打ちを狙ってる」 「そのときは、俺の命で必ずお前を守ってやるよ、篤司」 だが篤司は死んだ。 |
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□京神deバスタード2□ 自分がどうして生きていたのかはわからない。 ただ、世界だけはあった。彼が手に入れたいと望んだ世界が、彼がいなくなったあともあった。それが憎かったのかもしれない。 憎んでいるのかもしれない。わからない。彼を失ってからはなにもかもが現実味がなく、リアルさが足りなかった。彼が望み果たせなかった願いだけが、唯一、色鮮やかだった。 そうして、時が廻り、彼は再び生を受け敵となった。 「実花と伊東が寝返って、牧野は死んだか……」 魔女と武人は去り、賢者は地に沈む。 至高王ただ一人が残り、かつての覇王と戦う。 「王は二人もいらねえよなァ……」 だが勝つのははたして、自分か、彼か、それとも破壊神か。 「破壊の神を名乗るなら、全て滅ぼせよ…?」 彼も、自分も、そして彼の守ろうとしているもの全てを、灰に還せばいい。 帰ってきてくれればよかったのに。 なんだよ、泣くなよ。なけるんだな、よかった。ああ勿体ねえから、俺なんかのために泣くな。笑って。会いたかった。会いたかったんだ。笑えって。なあ、頼むから、最後に笑ってくれ。ごめんな、怪我、治るよな。いてよな、ごめんな。愛してる。守れなくてごめん。愛してる。愛してる。どうして帰ってきてくれなかった? お前が帰ってきてくれれば何もいらなかったのに。 ごめん、そんな顔するなよ。なあ、今度こそ守れたよな? よかった。ハナからこうすりゃよかったんだ。 なあ、一言でよかった。 お前が死ねといってくれたら、俺は笑って命を捨てたのに。 |
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□光神□ 自分の幸福を願うことも出来ない。 他人の幸せを願うことも出来ない。 なのに、飢えだけはあった。それ以上でもそれ以下でもない飢えだけが、あった。 自分がいったい何に飢えているのか知ろうともせずに。 「きみを呼ぶ声、僕を呼ぶ声、聞こえなくなる声………」 「はい?なにかいいました?」 「なにも」 「光岡さん?」 「丈時って呼んでv」 へらっと笑った頭に神谷の拳がめり込んだ。 「いってえ!!」 「俺はアンタとちがって暇じゃないんですよ!!」 「エースなのに俺…」 「足があれば十分でしょ」 「頭だって大事にしてくれよ」 「多少脳細胞が死んだところでかわりゃしませんよ」 「一万は死んだのに…俺のニューロンが…」 ニューロンがシナプスがと呟き続ける光岡に、あきれた顔で神谷がいった。 「アンタがボケたら面倒見てあげますよ」 「………………ああ」 君の声はまるで子守り歌。 どんな言葉を、怒りに満ちた声ですら、この痩躯を守る。 「老人ホームに入れて」 「っええ!!?ひでえ!!面倒見てくれよ!!」 「………どうしようかな」 「真顔で悩むなぁ!!」 君の声だけが僕を寝かしつけてくれる。 飢えに苛まれた痩躯を、眠りに落としてくれる。 ああだけど君は俺が目を背け続けることなど、決して許しはしないだろう。 |
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□光神□ そのとき神谷は、非常にむしゃくしゃしていた。 なんかもう、当たれるもの全てに当り散らしたい気持ちだった。 そして、ブラジルの太陽を苛めることに決めた。 チームのエースともなれば、ましてそれがブラジルサッカー界の王者とも評される選手であれば、記者会見に単独で臨むこともよくある。 記者会見は基本的にスーツだ。 スーツ。 そして、その日がやってきた。 「待ってください光岡さん」 あわただしく結ぼうとしたそれを光岡の手からとって、にっこりと微笑む。 「俺が結んであげます」 語尾にハートマークのつきそうな勢いで、にっこりとネクタイを取った(一応)秘密の恋人に、光岡がよろめくのも無理はない。 動揺と歓喜に揺れる表情に、神谷はやけに可愛らしく(普段の2.5倍/当社比)微笑んで、ネクタイを光岡の首に回そうとする。 その瞬間、光岡に正気が戻った。 ここは二人っきりではない。なにも知らない後輩達も手伝いにきてくれているのだ。彼らの前で、ネクタイを結んでもらうのはプライドにかかわる。 男の見栄って、悲しいよな。 光岡の反応があまりに思い通りなので、つい嬉しくなってしまう神谷。よっぽどストレスを溜めていたらしい。 「光岡さん?」 わざと悲しそうな声を出して見せる。練習の成果もバッチリだ。 泣き叫んで逃げ出したパウルをふんじばって練習の相手をさせたのも無駄ではなかった。あとで飯をおごってやろう。 「いや、いいよ。自分でやるから」 光岡が震える声で答えた。かなり自制している。 後ろを向いてしまった光岡の背中に、寂しそうに呟いてみる。 「そうですか……せっかく練習したのにな」 わざと小さな声で呟けば、光岡の手が小刻みに震えているのがわかる。うまいこととどめを刺せたようだ。恋人にとどめをさしてどうする。 しかし神谷はご満悦だった。人目があったので、小さいガッツポーズにとどめたが。 喜びに打ち震える神谷をうっかり見てしまったマリオが青い顔でそっと目を逸らした。 「だって、あの人がバカみたいに上手いから俺の見せ場が減るんですよ。そこらのチームじゃ敵になんないし。責任はとってもらわないと」 |
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□いちおう京神□ じいさんが、住んでいたんだ。 子供の頃の話だ。 隣の隣の家を右に曲がったその奥に、偏屈なじいさんが住んでいた。 ボケてるという噂だったが、俺から見るとじいさんはただ性悪なだけだった。初めてあった俺にじいさんはいきなり「お前さんは一生背がのびんな」というようなじいさんだった。結果として背は伸びたが。 そのころの俺といえば、我ながら可愛い気のないガキで、それでも長年優等生をやっていると自然と特大の猫かぶりになる。 そうして誰もが俺を良い子と見る。それが歯がゆくてならなかった。ストレスもプレッシャーも感じない代わりに怒りが積もっていった。何に対してかといえばそれは間違いなく周囲に対してだったが、理由を聞かれると、さて答えられない。 ただ不満なんだ。つまらないんだ。ここは退屈すぎるのにどうして誰もそのことに気づかないのか! そのころ、俺がそんなことを言い出しても驚かない人間が二人だけいた。 一人はお前もよく知ってるガキの頃から問題児だったアイツと、もう一人はそのじいさんだった。 俺はじいさんにいった。 「このままじゃまずいんだ。俺は、理由もわからない怒りにふりまわされて爆発してしまう。わかっているのにいらいらするのがとめられないんだ。こんなのは俺らしくない」 じいさんは笑った。 「お前さんらしいじゃないか。ああ、とてもお前さんらしいの。理由がわからない?簡単だ」 皺に埋もれた目がほんのたまに光ることがあって、その時はそのほんのたまにだったな。 「お前さんは理想が高すぎる」 まだランドセルしょってる子供をじいさんはバッサリ切ってくれたよ。 「自分の理想と周りが違うから苛々してるだけだろう。ガキのくせに夢だけはいっちょまえにな」 いっそ、すがすがしかったな。清々したというか、もやもやが吹き飛んでさっぱりした気分だった。 成程、自分は理想主義者なのかと、その時ひどく納得したよ。 それと同時に、興味がわいたんだ。このじいさんなら、俺の幼なじみを何というか。 「じゃあ京は?京はどうなんだ?」 「あの坊主は目ぇ開けたまま寝とるわ。お前さん、叩き起こしてやったらどうだい」 あのときは笑ったな。爆笑だった。 あれ以上的を射た表現を俺は知らないな。 確かに奴は、起きてなかったよ。現実との間に、薄くて頑丈な膜を敷いて、赤ん坊みたいにそこで寝ていた。 いや、生まれつきじゃなかった。そう、確か、知り合って間もない頃は、何回か起きていたな。それがだんだんと回数が減っていって、気づいたら起きなくなっていた。 「無理だ。俺じゃ起こせない」 「だろうなァ。しっかし、自分じゃ起きんぞありゃあ。目の覚まし方を忘れたツラしとる」 呆れた声の中に、わずかに案じる色が滲んでいて、このじいさんも人間だったんだなあと幼心に思ったものだ。 あのころは俺もじいさんも、この先京が起きることがあるなんて夢にも思えなかった。アイツは完璧に起き方を忘れていたし、叩き起こせる人間はどこにもいなかった。 まさか、この目で生きている京悟をもう一度見る日が来るとは思わなかったよ。嬉しいと言い切るには複雑な気持ちなんだが、そうだな、つちのこに遭遇した人間の気持ちが良くわかるな。 そうそう、あのじいさんまだ健在らしいから、今度京と二人で会いに行ってやったらどうだ? アイツが起きているのを見たら、さすがのじいさんも腰を抜かすだろうから。 「い、岩上さん……」 「うん?どうした神谷、青い顔して」 「いえ、どうしたっていうか、あの、俺は岩上さんの幼少時代を聞いたんですが」 決してホラー小説並のストーリーを音読されたかったわけではなく。 「だから今話しただろう?」 「…それのどこが普通の幼少時代なんですかー!!?うそつきー!!!京悟より屈折してるじゃないですかアンタ!!!」 「心外だな。俺は京ほど波瀾万丈に生きてはいないぞ?」 いたってまともだと断言するこの人の頭はどうなっているんだろうと、思わず遠くを見上げてしまうこと二十秒。 ああ、空が青い。 「それはそうだ。飛行機の中からはそれ以外見えないだろう」 「心を読まないでくださいっ!!」 「篤司……?どうした?」 「アンタはおとなしく寝てろぉ!」 薄茶色の頭に毛布をかぶせること三十秒。ようやく動かなくなった。 「神谷、それ以上続けるとさすがの京も」 死ぬぞ?と笑顔でいうこの人が誰よりも怖いです。 |
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□京神□ 壊してはいけないだろうか、これを。 そっとそれに手を伸ばし、草薙は自嘲する。思ったところでできやしない。決めたところで体は動かない。 壊してしまいたい。この温かい存在を。 なのに壊せない。手も足も拒絶する。 お前は明日も目を覚ますだろうか。 目を覚まして、おはようと笑ってくれるだろうか。 そんなことはわからない。暗闇の中、男はベッドを降りた。無性に煙草が吸いたくなったが、それはずいぶん前に、彼に禁止されている。禁止されて、それ以来一本も吸っていないし買っていない。 おかしな話だ。男はまた闇にまぎれて笑った。この自分が、こんな簡単にいうことを聞くなんて。まるでペットねと、罵って去っていったのはどこの女だったか。 ペットなら良かったのに。いっそ爪も牙もない無力な小動物だったら、愛玩されて死ぬことができただろうに。 ペットにはなれない。爪も牙も捨てられない。たとえ彼を傷つけたとしても。いや。 彼を傷つけるだろう。彼を、神谷を、自分は必ず手酷く傷つけるだろう。 (わかっているのに離れられない!) 夜の窓辺で男はもがく。爪をどこに立てればいいかわからない。牙を誰に剥けばいいかわからない。自分から敵を奪っていくこの温かさはいったいなんなのか。 敵が必要なのだ。必要なのは彼じゃない。神谷じゃない。そう、思い込もうとして失敗する。繰り返し、それが不可能なことを悟り愕然とする。 敵をなくした自分は、それでも誰かに牙を剥かずにはいられないだろう。 壊し、壊されて生きてきた。なに一つ生産的ではない道を生きてきた。それがたまらなく好きだった。刹那的で、非生産的で、なんの意味もない行為。それ以上に心沸き立つことなどなかった。 意味も価値もない命を、無為に消費して何が悪い? 努力は嫌いだ。何かを手に入れたいとも思わない。何もなくていい。 (神谷) どうか、止めないで欲しい。この無駄な人生を。どうか引き止めないで欲しい。温かい場所に連れて行かないで欲しい。 お前を愛してるから。 痛みなど感じない。切り裂かれても撃ち抜かれても、痛みなど感じない。この体はおかしいのだろう。この頭と同じに。 ただ、彼に何かあったら。 そのときだけ全身が悲鳴をあげる。わかっているのに。 (わかっているのに俺はお前を傷つける) どうか止めないで欲しい。前を塞がないで欲しい。お前を引き裂いたら俺は死ぬだろう。愛してるからじゃない。痛みに耐えられないからだ。だからどうか。 (俺がお前を壊してしまう前に) どこか遠くに、逃げて欲しい。 ただ叶うならどうか、いくらでも祈りを捧げるからどうか、その時がまだ遠い場所でありますように。 |