答えの無い質問ばかりを繰り返す。



花の庭











 愛情の庭で花は枯れるのだろうか。







 真夜中の電話に呼ばれて真夜中の公園へ行くと、白い厚手のコートを着た彼女が一人、ブランコをこいでいた。
「一度ね、やってみたかったの」
 吐く息が白い。
 真冬の澄んだ空気の中で、自分たちの吐いた色だけが鮮やかだ。
「夜の公園で、ブランコをこぐの。ドラマでよくあるじゃない?」
 ここ数年、ドラマを見ることない神谷は、曖昧に頷いた。
「でもちっとも楽しくないね。ちっとも」
 憎しみすら感じる声で、彼女が呟く。
 そうだろうなと、曖昧に神谷は頷く。


「神谷くんはもう、立ち直った?」
 それは、疑問形であって疑問でない問い。
 美奈子は、嬉しそうに、立ち直ったかと聞く。持っていかれた心が戻ってくる日は、永遠に来ないことを知っていて。
 お互いに、知っていて。
「…帰ったほうがいい」
「どうして?」
「夜中に女が出歩いたら危ないだろ」
 一瞬顔をゆがめた彼女は、やがてその勢いを無くす。
 錆び付いたブランコから立ち上がると、真っ直ぐに神谷に近づいてキスをした。
「お見合いしたの」
 唇しか触れない。腕も体も、互いを抱きしめるためには持たないから。
「結婚するかもしれない」
「……おめでとう」
「神谷くんはしないの?」
「結婚?」
「そう」
「……どうだろうな」
 考えたことがなかったといえば嘘になるが、望んだことがあるといっても嘘になる。
「あの人としないの?」
 いわれた言葉に驚いて美奈子を見返した。
「北原さん……俺とアレの性別わかってる?」
「うん。できないね」
 彼女はくすくすと笑う。神谷はぐったりと力の抜けた体で、言葉を続けた。

「おめでとう、幸せに」





 そう言って、彼女に一度、最後のキスをする。






「もうホテルには行かないの?」
「行かないよ」
「あたしとセックスしないの?」
「しないよ」
「どうして?」







 神谷は美奈子を見た。吐き気がするほど綺麗な眼だと、かつて罵られた目で親友の恋人だった女を見た。
 それは自分も同じだと思った。今も昔も、美奈子は吐き気がするほど綺麗だ。
「北原さんに、幸せになって欲しいから」
「……ばかね」
 声は優しく甘かった。ああ本当に、彼女は吐き気がするほど綺麗だ。それはきっと、美奈子も同じ思いなのだろう。


「ねえ教えて」
 美奈子はいつも、答えの出ないことばかり聞きたがる。
「今でも想ってる?」
 けれどその答えは簡単だった。神谷は首を振った。
「想ってないよ」
 その心はもう全て、墓の中だから。
 美奈子は最後に一度だけ、この世界でたった一人の同士に振り向いた。
 そして、二度と振り返らなかった。 




 もう二度と、キスをすることもない。

 もう二度と、触れ合うこともない。









 もう二度と、息もできないほどの殺意を覚えることもない。










 寒さから逃げるように早足で帰れば、緑がかった目が意外にも起きていた。
 その骨ばった指に拭われて、初めて、泣いていることに気がついた。











 絶望の庭で花は咲くのだろうか。







 答えてほしい。答えが、あるのなら。






















 昔日記に書いたやつを少しいじってアップ。美奈子と神谷のコンビはかなり好きです。でも×じゃなくて、&で。共犯者的な関係が好きです。