小柄なくせに、馬鹿力で。
繊細そうに見えて、大雑把で。
水のように見えて、研ぎ澄まされた石のような人。
カメとウサギとウサギの恋
図書室の、本棚を四つ越えた、小さなスペースに一人用の勉強机が置いてある。
勉強する習慣の無い俺でも、その場所だけは知っていた。知っている人が、よく座っている場所だから。
今日もやっぱり、ここにいた。数学の教科書を広げてぼんやりと窓の外を見ている、最近ではあまり見かけない姿。
少し前までは見かけるだけで逃げ出していたのに、今ではつい姿を探してしまう。でも会いたいわけじゃない。
「内海さん」
この人は俺を好きじゃないし、俺もこの人を好きじゃない。
まだ少しぼんやりとした顔は、眠気を引きずっているように見えた。受験生は大変だ。
「俺、次のキャプテンなんスか?ほんとーに?」
「監督に聞いたのか?」
「ええ、冗談でしょ?」
なんて、ね。知ってる、この人が嘘をつかない事くらい、嫌というほど知っている。
嘘つきになってくれればいいのに。
「なんで、俺なんですかぁ?」
「他にいないだろ」
ああ、そうですか。こういう時は「お前が一番頼りになるから」くらい、いってくれてもいいんじゃないの?
「俺いやですよ。めんどくさい。他のやつにしてください」
「芹沢」
「嫌です」
せいぜい爽やかに笑ってあげる。本気だとわかればいい。
俺が本気で断っていると理解して、理解して、それでも。
あなたは自分の意志を曲げたりはしないのだ。その証拠にほら、俺をじっと見上げてくる眼には、迷いの色なんて欠片もない。
どう説得しようかだけ、考えているんでしょう?本当に嫌な人だ。
「俺センパイのこと嫌いなんです。だから、キャプテンは継げません」
嫌いですよ。本当に。あなたは俺を否定するから。俺を否定して否定して、粉々になった俺に振り返ってもくれない。
「俺、内海さんのこと、嫌いなんです」
それでも揺るがない、動揺してもくれないあなたが嫌いなんです。
「それで?」
内海さんが、普段どおりの声でいった。
「それで?その続きは?」
「続きって……俺のいったこと聞こえてました?」
「俺が嫌いなんだろ?その続きはなんだよ」
続き?そんなもの必要ないでしょ。嫌いは嫌いで、そこで終わり。
そういってやりたいのに、声が咽で絡まって出てこない。
馬鹿みたいに立ち尽くす俺の前で、内海さんは教科書をしまって立ち上がった。
「続きを考えてから来い」
それだけいってさっさと去っていこうとする内海さんの腕を、思わず掴んでいた。
「……続きは…」
ほら、こんな時でもあなたは揺るがない。この人を形作る固い意思は俺なんかじゃ太刀打ちできない。あなたは俺がいてもいなくても変わらない。
腕を掴んでいた俺の手が、そっと、やけに優しく外された。
振り返ることなく去って行く後姿を、俺はただ見ていた。
嫌いだからキスしてもいいですかといったら、あなたは俺を忘れないでくれるだろうかと思った。
なぜいきなり芹内かというと、表紙のお礼だったりします…ずいぶん遅くなったけど!(喀血)