落し物 1



「やっぱ、ねえか・・・」
 それはある日の土曜日。一人暮らしですっかり主婦のようなまとめ買いが癖になってしまった坂本は、とあるスーパーの中で、高く積み上げられた商品を前にため息をついた。


 その日はいい天気だった。
 一ヶ月くらい前に大阪の奴らとやってからは平穏な日が続いていて、久しぶりに一人で坂本は街に出ていた。
 といっても、買っているものはそこらの男子高生とはかけ離れた代物ばかりなので、なるべく人目につきたくはない。
 ずっしりと重いスーパーの袋を一人抱えて苦労する羽目になろうがなんだろうが、葛西をつれてこようとは思わない。
 (あんな目立つ奴を連れてこれるか・・・・!)
 あのバカ、心の中でのみ罵りながらアパートまでの遠い距離を歩く。
 葛西がいれば、別に嫌がらずに荷物を半分持ってくれるだろう。それはわかっている。
 そして翌日には尾ひれのついた噂が池袋中に回ることも。
 なのに本人が自覚がなく、いちいち不機嫌になるのは止めて欲しい。
「どうすっかな・・・」
 ようやくついたアパートの玄関に重い袋を降ろして、一人心地つく。
 別にあんなものなくたって、坂本は一向に構わないのだ。
 葛西だって別に文句は言わないだろう。
 別に・・・なくてもいいのだが・・・
「ったく、しゃーねーな」
 小さくつぶやいて、結局またドアの外へと出て行った。


 渋谷。
 少し行きづらいのは、坂本が悪いわけではない。
 かといっていまさら親友に文句をいうつもりはない。
 止める力を持たなかった自分が一番不甲斐ない。
 そう、沈んでいきそうになる思考に、軽く頭を振ってブレーキをかける。
 揺れる電車から、窓の外に目を向ければそこには、人の意志と変わりなくたっているようなビルの群れが見えた。


「おらぁっ!もうおしーめかよ!!」
「許してくださいって、手えついたらどーだ!?」
 ビルの隙間から聞こえる野卑た声。見やれば、それらしい学生とその隙間から壁を背にしてうずくまっている黒いものが見えた。
(あーあ)
 リンチだ。あれはもう、動けなくなっているだろう。その辺で勘弁してやれよ、と思っていると、囲んでいる一人がまた蹴りを入れるのが見えた。
 思わず体が動きそうになって、慌てて足を止める。
 いけない、ここは池袋ではないのだ。
 いくら私服とはいえ、こんなところで面倒を起こしたくはない。ただでさえ、正道館の自分にはこの街は居心地が悪いのだ。
 目当てのものも買えたことだしおとなしく帰ろう、そう踵を返したとき、とうとう地面に倒れこんだ体を踏みにじる姿が見えた。
 返した踵をまた返し、真っ直ぐにビルの隙間に向かう。
 葛西が知ったらまた呆れられるな、と思いながら足は止めない。
 仕方ない。性分だ。
 遠巻きに見ている人の群れをくぐり、背に視線を感じながらあっさりと無視して、坂本は一番外側にいた一人の肩に手をかけた。
「おい」
「あぁん?何だて       !」
 最後まで言わせず殴った。
 きれいに決まった一撃でまず一人。
「てめぇっ!何しやがる     !」
 叫びながら大きく振りかぶってきた拳をかわして懐に入る。それで二人。
「おいコラ、てめえなにしてんかわかってんのか!?」
「正義ごっこはよそでやんな!」
 そんなんじゃねえけどな、と声には出さずにつぶやく。
 まあ、三対一くらいなら手は出さなかっただろう。
 見知らぬ制服を着た連中が、馬鹿にした笑い声を立てた。
 人数が多ければ、負けないと思っているらしい。
 まあ確かに、一人あたり50人くらいいれば勝てるわけがないと思うが。
「いいからさっさとこいよ」
 馬鹿にするように笑ってやれば、すぐに頭に血の上った奴らが突っ込んでくきた。
 確かに人数だけは集めたらしい。十人以上はいるのを見て坂本は思わず苦笑した。
 まあ普通は、この人数相手には勝てない。
 普通なら。
 坂本にとっては、高一の、葛西の周りがまだ敵だらけだった頃にはよく通った修羅場だ。それも皆ケンカ慣れした相手の。
   人数集めてリンチするしか能がない、ケンカの仕方も知らないような奴らでは相手にならない。


「片付いたかな」
 皮肉ってやるが、相手はろくに聞こえていないようだった。
 十人以上いた仲間がみんな地面にキスさせられたあとでは仕方ないかもしれないが、情けない。こんなクズどもを相手にするより親友一人相手にするほうがよっぽど怖いよな、とのんきなことを考えていた坂本に隙を見て、頭だったらしい男がナイフを片手に突っ込んでくる。
 悲鳴のような叫びが回りから聞こえたが、坂本は動じることなく切っ先をかわすと、勢いに乗って止まれない体を後ろから蹴り倒した。
「ナイフは止めとけよ、危ねーから」
 矛盾する言葉を真顔で吐くと、うずくまっている中で一人服の色が違う奴に声をかける。
「大丈夫か?」
「あ・・・・ありがとう・・・ございます・・・」
 驚愕なのか恐怖なのか、がくがくしながら頭をぶんぶんと振る姿に、軽く息を吐いていった。
「立てねえのか」
 ボロゾーキンのような姿だ。まだ幼い顔に、つい親切心を出して手を貸した。
「す、すいませんっ!」
 ふらふらと起き上がり歩こうとして、また体がかしいだ。そこでつい、支えようと坂本は手を出した。
 後で思えば、それがいけなかったのだ。
 おせっかいはほどほどに。その後坂本は心に誓ったのだが、そのときはまだ知るよしもない。
「こっちです!」
 なにやら騒がしい、と通りの方に目をやれば、手を貸している相手と同じ色をした制服の群れが飛び込んできた。
「あ・・・上山さん・・・・」
 プロレスラーのような体格の男を見て漏らされた安堵の声に、仲間だと悟った坂本は、そのとき一瞬、本当に気を抜いたのだ。
「テメェかぁー!!」
 だからとっさに動けなかった。
「            え?」
「ちがっ        上山さん!!」
 悲鳴に似た制止の声を聞いたのが最後だった。
 なんの身構えもなく叩き飛ばされて、コンクリートの壁に激突する。
「            くっ」
 衝撃に息が詰まり、目の前が暗くなる。
「その人は助けてくれたんすよ!!」
 その声も、暗闇に落ちていく意識の中遠く響いただけだった。
    






『お前、バカじゃねーの?』
 暗いくらい底のほうで、金髪の男の呆れたような声が聞こえる。
 ・・・うるせーな。
 お前にだけは言われたくねーよ。
『お前弱ェんだから、俺のいねえトコで喧嘩すんなよ』
 ふざけんな。
 お前が馬鹿みたいに強いだけだろうが。



 あー、でも。
 ばれたらまずいなあ。

 
 ふわふわと、暗いところに落ちていく気がした。



 本当は小太郎をだそうかと思ったんですが、小太郎はもうちょっと強くなっていて欲しいのでオリキャラに。
 私的に小太郎は攻めなので(爆)
 鬼塚にハンカチを渡すとこで、イロイロ落ちました(笑)

 2へ