王様ゲーム 1


 その日、牧山と仁はいつもどおり、学校帰りに喫茶店に寄った。
   そこは正道館の生徒にとってはおなじみの店で、いつもつるんでいるメンバーの一人、山中が先にきているはずだった。
 けれど、カランコロンと音を立てながら中に入ったとき、なにやら店の中は静まり返っていた。
 店がすいていたわけではない。いつもどおり青いガクランで埋め尽くされている。
 あれ、と思いながら、なんとげなしに店の中を見回すと、半ば悲鳴のような声があがった。
「牧山っ、仁っ!!やっと来た〜」
 最後のほうは涙声になっていた。
「山中?どーした------!」
 どーしたんだ、といおうとして思わず固まる。
 店の角に座って半泣きになっている友人の姿と一緒に、そうそうたるメンバーが目に入ったからだ。
「テメェ、勝ち抜けしようったってそうはいかねえぞ!」
「で、でもっ、あいつら来たし・・・来るまでって言ったじゃないですかあ・・・」
「抜けるなら代わりの奴連れてこい」
 とたんにすがるような眼で見られて、牧山・仁は反射的に首を振った。
 なんだかわからないが、巻き添えはいやだ。すごくいやだ。
 山中と同じテーブルにいるメンバーを目にした後では友情ももろかった。
 正道館の頭とその親友。残りの二名も、唯一トップを呼び捨てに出来る顔ぶれだ。
(すまんっ、山中。犠牲になってくれ・・・・・)
 心の中でそうつぶやいたのは、牧山達だけではなかったという。



 山中のSOSを背中に痛いほど感じながら、こそこそと空いている離れた席に座って、そばにいた友人に小声で聞いた。
「何かやったのか、山中の奴」
 聞かれた相手もすごく哀れみの表情を浮かべながら首を横にふり、言った。
「あいつ要領悪くてさあ・・・」
 確かに吉祥寺との抗争のときも、人質になった挙句に前田に殴られたくらいである。



 ことの始まりは、やっぱりリンだった。
 ブームはとうの昔に去ったが、なんとなく暇を持て余して(といってもサボり中だったが)近くにいた仲間を無理やり巻き込んではじめたそれに、ついはまってしまったのである。
 その名も『王様ゲーム』
 加減を知らない仲間とやるとこの上なく恐ろしいゲームに変貌し、紙切れ一つでいつでも楽しめるお手軽ゲームだ。
 それで放課後の喫茶店でも、つい取り出してしまったのである。
 最初坂本は嫌がった。唯一まともな、というか常識のある彼は、こんな何を言い出すかわからないメンバーでやるのはごめんだった。
 それに反応してやる気になったのは葛西である。最初はどーでもよさげだったのに、坂本が嫌がるととたんに乗り気になるのはかなりの悪癖だ。
 葛西とリンがやる気になってしまえば、西島には止められない。最近とみに胃薬が手放せなくなった彼は、またしても胃が痛むのを感じながら引きずり込まれた。
 しかし坂本は最後まで嫌がった(当然だ)。
「俺はやらない。絶対やらないからな!やるならお前らだけでやりゃあいいだろうが!」
「意地を張るなって。やってみると楽しいぜ?」
「絶対にやらねえ」
 リンと坂本の攻防に、終止符を打ったのは正道館トップの一言だった。
「わかった。山中」
 葛西が振り向いた先には、さっさと避難すればいいものを気づかずに水を飲んでいる姿があった。
「はいっ・・・・・?」
「おまえ入れ」 
 唐突な一言に、坂本が振り向くと、葛西はこともなげに言った。
「山中がやるんだ、お前も混ざるよな?」
「・・・・・こんの野郎ォ!」
 お前は悪魔か、と叫びたかった。
 葛西の魂胆はわかっている。ここで自分が入らなければ、ストッパーのいないメンバーで暴走していくだろう。別に葛西・リン・西島だけならどんな悲惨な目に会っていようがかまわない、自業自得なのだが、先輩に逆らえるはずもない哀れな一年が巻き込まれるとなると、つい気がとがめてしまうのだ。
 ほとんど頭を抱えながら横目で指名された哀れな一年を見れば、顔面蒼白で今にも倒れそうだ。その上すがるような目と、目が合ってしまった。
 いつかこのクサレ外道な親友に天罰があたりますようにと祈っておいて、坂本はため息混じりにうなずいた。
「・・・・あーもう、やるよ、やりますよ、やりゃあいんだろ」
「そう」
 そうして、恐ろしい『王様ゲーム』が始まった。



「はい、ひいてー」
 やたらと真剣な声で、拳を突き出したのはどう見ても高校生ではない容貌をグラサンで隠しているけど逆効果なんじゃ、と邪推したくなる男、西島である。
 我先にとリンが引いて、次いで葛西、震えながら山中、嫌そうに坂本が引き、残った一枚を西島が開く。
 どきどきしているのはなにも遊んで(?)いるメンバーだけではない。さっきから店中がこれに反応している。
「王様は?」
 聞くからには葛西ではないのだろう。
 誰もが息を詰めた一瞬の沈黙の後、震えと涙の混ざったような声が漏れた。
「俺です・・・・・」
「またかぁ!!山中、テメェ、何かイカサマしてんじゃねえだろうな!!」
 テーブルを叩いて叫ぶリンに、山中はぶんぶんと首を振った。
 そんなことはありえないのだが、リンが叫ぶのも無理はない。さっきから続けて山中が『王様』を引いているのだ。
「止めろよ、リン。山中にしてみりゃ王様なんて引きたくねーだろ」
 呆れたような坂本の声に、山中はがくがくと今度は首を縦に振った。
 最初は王様に何を命令されるかが不安だったが、今となっては何を命令されてもいいから王様だけはもう引きたくない。
 引きたくないのに・・・・! 「で、命令は?」
 葛西の冷静な声に、現実に引き戻された山中は必死になって考えた。
 何とか、何とか先輩達の機嫌を損ねないものをいわなければならない。だが、あんまり簡単すぎると葛西に却下されてしまう。
 山中は本当に必死になって考えたのだ。なんといっても身の安全がかかっている。今まで生きてきた中でもトップを争うくらい必死に考えた。
 しかし浮かばない。
 こういうときの常として、とっさに良い案など出ないのだ。気が焦っているならなおのこと。
 周りは静まり返って自分の言葉を待っている。沈黙に耐え切れずに山中は言ってしまった。
「四番が・・・・校歌を歌う」
 わずかな沈黙のあと、椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がったのは、
「山中ァ・・・・」
 西島だった。
「あーよかった」
「手拍子でもしてやろうか?」
「頑張れよ」
 呼ばれなかった三人は好き勝手なことを言っているが、当てられた本人は仁王立ちしている。
 グラサンの下からそれだけで人を殺せるような視線が送られて、山中は縮み上がった。
「山中、何がいいたいかわかるよな?」
 ドスのきいた声に反応したのは、散々ひどい目にあったリンと坂本だった。
「命令を変えるのはなしだからな」
「一週間奴隷でもいいなら別だけど」
 ちなみに命令が実行できなかった場合の罰ゲームは、みんなの一週間奴隷である。
 しゃれではすまない。ほんとに奴隷をさせられるのは目に見えているので、西島も顔を青くしたがそれでも言い募った。
「俺は、歌は苦手なんだ!」
「苦手なんて可愛いもんじゃねえよ、音痴だ音痴」
 リンの突っ込みに皆深くうなずいた。
「確かに、ちょっとな・・・西島の歌を聞くのは、俺もちょっと・・・」
「だよな!?」
「ふざけんな。てめえ一人だけ逃げようったってそうはいかねえ。坂本は嫌なら耳塞いでろよ。俺はちゃんと聞いてやるからな」
 一対一、プラス中立。
 こうなると、最後の一人の言葉で運命が決まる。
   すがるような目とか睨むような目とかに囲まれて、正道館の頭は意地悪く笑った。
 それを見た瞬間、坂本は親友がなにを言い出すか大体想像がついた。
 嫌なことに、今まで外れたことがない。
「校歌でよかったじゃねえか」
 ぬけぬけと、葛西は言い放った。

 補足しておくと、正道館にも当然音楽の授業はある。
 しかし卒業したら半数は本職につくといわれている彼らが、音楽を真面目に受けるわけがない。
 音楽教師は生徒ともめるなんて恐ろしいことはしたくなかった。ほかに職もなくてなったような教師だったから、熱意もなかった。
 しかし点はつけなくてはならない。音楽だろうと立派な必修単位の一つだから、落としたら留年である。そんなことをして生徒の恨みは買いたくなかった。
 そこで、出来たのが校歌テスト。
 三学期になると、とにかく校歌を歌わせ最後に校歌のテストをする。うまい下手は関係ない。歌詞を覚えていればそれでいい。
 ここまではっきりと示されて校歌を覚えていなかったらそいつが悪いのだ。さすがにこれで落ちた生徒はいなかった。
 よって、正道館の生徒なら誰でも一応、校歌を歌える。





 可哀想に西島は歌った。
 観客は頑張って頭痛に耐えた。
 



 葛西は、前田に勝ったあたりまでの鬼畜葛西で書いています。
 そのあとの彼は受けでも許せる可愛さが・・・・いや、なんでもないです。
 実をいえば管理人は葛西が受けでもたぶん平気、ですが書くことはないです。
 あくまで葛西坂本で。
 2は同人色が強いうえ黄金のパターンまんまですから、嫌いな人はおやめください。


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