世界の子供 『春』 1


「いたいたいた、やっぱりいた!」
「・・・・なにが?」
「あの子がいたんだよ!」
 何も知らない人が聞けばお目当ての女の子でも見つけたのかと思うセリフだったが、正確に意味を理解した岩上は、やれやれとため息をついた。




 本日はお日柄もよく、新学年新学期。
 今年は早々と春が訪れたので、四月の初めだというのにもう葉桜だ。
 岩上はまたもや腐れ縁によって草薙と同じクラスだった。草薙にいわせると「運命の黒い糸が絡みついて」いるらしい。そうかもしれないと、張り出されたクラスわけを見ながら思った。
 そしてその草薙が、常日頃遅刻魔かつサボリ魔の男が、珍しく朝からいるからどうしたのかと思えば早々と新入生をチェックしてきたらしい。
「問題児が増えるなあ・・・」
 草薙が目をつけるような相手が、よい子ちゃんであるわけがない。類は友を呼ぶのだ。
「人のこといえないだろ」
「馬鹿言え。俺のどこが問題児だ」
 ふーっと息を吐いて、草薙は大げさに肩をすくめていった。
「自覚がないってのが、一番ヤバイよね」
「・・・・・・・それで、名前は?」
「しらねえ」
 草薙は言ってからしまったと思った。
 見れば、岩上が馬鹿にした顔で見ている。
「そのくらい調べてこいよ。何しに一年の教室まで行ったんだ」
「んなこといったってな、目立つんだよ!ただでさえ俺は目立つのにあそこに行くと余計目立つの!ガキどもに物珍しげに見られてみろよ!?いくら俺だって名前を調べる余裕はねえよ。それに俺はガキが嫌いなの!」
「ふぅぅぅん」
 明らかに岩上のほうが優勢だった。
 草薙だって、知りたいとは思ったのだ。だが、まだピッカピカの一年生ですというオーラを放つ集団は、いろいろ世俗にまみれた身としては、光輝き過ぎていて居たたまれなかった。
「じゃあ、行くか」
 楽しそうに席を立った帝光のエースに、どこにとは聞くまでもなかった。
「行きますか」
 んーと伸びをして、天才GKも立ち上がる。
 なんだかんだいって、二人とも面白がっていた。



 その頃は、まだ。



「・・・確かにこれは入りにくいな」
「だろ?しかも1−4は真ん中にあるからな、あそこまで入っていくと視線が突き刺さってくるぞ」
 お目当ての新入生がいる一年四組から離れた、廊下の端で二人は立ち止まっていた。
 それでもチラホラ見られているのがわかる。二人がデカイ図体をしているということもあるが、帝光学園はスポーツに力を入れているのでスポーツ推薦で入ってくるものも多い。高校サッカー界のキングと異名をとる岩上は、サッカーをしているものはもちろん、していないものにも有名だった。
そのキングが廊下の端でこちらを伺っているとなれば、視線が集まるのも当然である。
「どうするかな」
 しかし本人は視線に無頓着のまま呟いた。
「誰か知り合いとかいねえの?中学のときの後輩とか」
「それはいるだろうが、ここからじゃわからない・・・・って、おまえ同じ中学だろう」
「野郎の顔なんて覚えてねえよ」
 興味がないものに対してはとことん無関心な草薙の言葉に、岩上が毎度のことながら呆れていたとき、
「あー!岩上さん、草薙さん!!」
 うれしそうに駆け寄ってきたのは、これまたデカイ男だった。
 まだ真新しい制服がすでにきつそうなその新入生は、さすがに草薙も覚えていた。
「松木!お前うちだったのか!?」
「そーッスよ!お久しぶりです!!」
 そういって勢いよく頭を下げる新入生は、中学のときの後輩だった。
「まーたお前か・・・」
「お久しぶりです、草薙さん!またよろしくお願いします!」
 草薙がイヤーな顔をしてもまるで気にせず、ぴんと背筋を伸ばして大声で挨拶をする。筋金入りの体育会系で、かつポジションはGK。
 松木宏道、15歳。このたびめでたく帝光学園に入学。
「ちょうどよかった、松木、おまえ何組だ?」
「一年四組です!」
 張り切って返された答えに、思わず岩上と草薙は顔を合わせた。
 なんとなあく、嫌な予感がする。ただ同じクラスだというだけなのだけど、この後輩の性格をよく知っている身としては、あの子供と同じクラスというのは不吉に感じられてしまう。
「まあ、都合はいいけどな。松木、もう名簿もらったよな?」
「はい!見ますか?」
「おう」
 すでに端の折れている名簿を開く。
「確か、廊下側から二列目の前から三番目だった」
「一列何人だ?」
「六人だろ」
 六+三、出席番号九番は。
「えーと・・・・神谷、篤司か」


 それがあの、一人でもサッカーをしていた子供の名前かと、草薙は小さく笑った。


 名前を知っただけで、心が浮つく。
 これじゃまるで恋だと、自分で自分を揶揄った。
 束の間の遊び感覚だった。
 その頃は、まだ。


 


 いつだって、引き返せなくなってから溺れている事に気づくのだ。














 松木君登場。
 これを書くために、長らく手をつけなかった『新たなる伝説』の7,8巻を読みました。
 頑張った・・・辛かったけど・・・最後のほうは涙が出そうだったけど・・・・
 あの帝光が5点差で、しかも一点も取れずに負けるなんて、見たくなかった・・・・(泣)あの話がいいとか悪いとか言うつもりも、意見を押し付ける気も全くないです。ただ帝光に愛を注いでいる私には見るのが辛いというだけです・・・(泣)真のファンじゃなくていいです、私は強い帝光が見たかったよ〜う。せめてもっと僅差だったらなあ。
 でも結局松木の学年がわからなかった(笑)たぶん三年だと思って神谷さんのクラスメイトにしましたが、恩田に呼び捨てにされてたからもしかしたら二年かも(汗)
 松木はなぜかイメージが某忍者漫画の濃い上忍なんですが、間違っているとは思います(爆)


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